アップルが欧州デジタル市場法に噛みついた理由、「政府が民間企業の知的財産を強制接収し、競合他社に再配分する行為」とマイナス面を強調

DMAに違反すれば巨額の制裁金を科される
ジョズウィアック氏が批判するDMAとはどのような法律なのか。
DMAは2022年9月14日に法制化され、2024年3月7日から全面適用された法律。「ゲートキーパー」と呼ばれる巨大プラットフォーム企業(アルファベット、アマゾン、アップル、バイトダンス、メタ、マイクロソフト)に対し、第三者への技術開放や相互運用性の確保を義務付けているものだ。違反した場合、企業は全世界売上高の最大10%(再犯の場合は20%)という巨額の制裁金を科される可能性がある。
欧州委員会は「DMAは新製品のEU市場への投入を妨げるものではない。逆に、イノベーションと選択の自由を維持するものだ」と委員会報道官は話している。規制の目的は、市場参入のゲートキーパーとなっている企業に対し、より公平な競争環境を求めることにある。
しかし、ジョズウィアック氏は、この理念と現実の運用との間に深刻な乖離があると批判する。
ユーザー体験の劣化という皮肉な結果にも
DMAの最も皮肉な側面は、消費者保護を目的に策定されながら、結果として消費者の体験を劣化させている点にあるのだという。ジョズウィアック氏が挙げた具体例は印象的だ。
「iPhone Mirroringという機能は、iPhoneの画面をMac上に表示し操作を可能にするが、欧州では利用できない。昨日のイベントで発表したライブ翻訳機能も、最新のワイヤレスイヤホンであるAirPods Pro 3との組み合わせで同時通訳を実現できるが、DMAに準拠する方法を見つけることができず、欧州での提供見通しは立っていない」
これらの機能が欧州で提供されない理由は、法令に遵守して同様の機能を他社が実現可能にするためには個人情報を含むさまざまなデータを第三者に引き渡さねばならない。しかし、これらの個人情報の中には、プライバシー保護やセキュリティの観点から第三者への提供が困難なものが多い。
ライブ翻訳機能を例に取れば、AirPods ProとiPhoneの多数のマイク情報を合成し、ノイズキャンセリングやオンデバイスAIを連動させる必要がある。この技術を第三者に開放するということは、収音情報などプライバシーに関わるデータを引き渡さなければならない。
地図アプリの機能制限も同様で、iPhoneは繰り返し訪問した場所や頻繁に選ぶルートを学習し、渋滞を検出すると早めの出発をうながす。しかし、この機能を第三者に開放すれば、ユーザーの行動パターンという極めてセンシティブな情報を、第三者に引き渡すことになる。
しかも、引き渡す情報の”使途”について範囲を限定することも、DMAのルール上、許されない。アップルの主張は、第三者に開放をすることはプライバシー保護の点で問題があるというのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら