愛媛大学「行動変容と組織開発」にまでつなげる、"教職員の能力開発"の緻密さ 教育や運営に密接に関わる「FD・SD」で広く評価
研修の中では、1つの解決策を提示するというより、さまざまな解決のための選択肢を提示することを重視している。なぜなら、所属する組織によって文脈が異なるため最適な方策も異なることが多いからだ。
参加者間の意見交換を取り入れることで、組織の文脈に合った具体的な方法を考える機会をつくったり、大学の組織や運営の特徴、変化に対する教職員の心理、教職員の行動を変える方法、合意形成の方法などを検討する時間も含めたりしている。
研修の最後の課題として、参加者は研修テーマに関する実施計画の作成を行う。それまでの研修での学習に基づいて、組織が抱える課題、具体的な実施の方法、実施の時期、実施に巻き込む関係者、成功した時の状況、予想される困難とその対処方法などを、参加者は実施計画としてまとめる。さらに、講師との個別メンタリングや参加者間での共有と意見交換が行われ、実施計画が洗練される。
このような組織開発を目指した研修は以下のようにまとめられ、愛媛大学モデルと呼んでいる。

さまざまな情報発信
愛媛大学は、FDとSDに関するさまざまな情報発信にも力を入れている。ここでは、研修動画の公開、メーリングリストの運営、大学教職員のためのブックガイドの3つの特徴的な取り組みを紹介する。
(1)研修動画の公開
「愛媛大学FD・SDチャンネル」という名称でFDとSDの動画を無料公開している。対面研修の事前学習に動画教材が活用されることもある。

(2)メーリングリストの運営
多くの教職員にFDとSDに関する情報を届けるために「ぼっちゃんメーリングリスト」を運用している。メーリングリスト会員はFD・SDに関するイベント情報等を投稿し、配信することもできる。
(3)大学教職員のためのブックガイド
大学教職員に役立つ書籍を厳選し、大学教職員のためのブックガイドを公開している。最新のブックガイドは、2025年3月刊行の「大学教職員のための56冊」である。
現在、大学は法令によってFDとSDが義務づけられている。義務づけられたことでFDとSDが日常化した一方で、外部からの評価に対応するためだけの形式的な活動になっているのなら残念なことだ。
FDとSDは、教職員の行動変容や組織の発展につながる活動である。学生の多様化、大学のグローバル化、情報技術の進展といった環境変化に組織的に対応する方法でもある。現在、大学は厳しい環境にある。だからこそ、大学を発展させるためのFDとSDを構築することが重要である。
(注記のない写真:eizan / PIXTA)
執筆:愛媛大学教育・学生支援機構 中井俊樹
東洋経済education × ICT編集部
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