愛媛大学「行動変容と組織開発」にまでつなげる、"教職員の能力開発"の緻密さ 教育や運営に密接に関わる「FD・SD」で広く評価
その特徴は、大学設置基準が定める定義より幅広い範囲の活動を含めていることだ。愛媛大学では、SDの定義に「各理念の実現と個々の自己実現を目指した」という言葉があるように、大学の目標達成だけでなく個々の自己実現を目指した活動としても能力開発を位置づけている。
なぜなら、大学の発展のためのみに大学教職員がいると考えるのではなく、大学での業務を通して自己実現を達成するために大学教職員がいるという視点も重要だからだ。この考え方は、働く人々が意欲と能力に応じて希望する仕事を選択し、職業生活を通じて幸福を追求する権利であるキャリア権を背景にしている※1。
FDの定義に関しては、授業の改善に関わる活動だけではなく、カリキュラムの改善や教育・学生支援体制の整備・改革に関する活動も含めている。FDの活動を、ミクロレベル(授業・教授法)、ミドルレベル(カリキュラム)、マクロレベル(制度・規則・組織)の3層に分類する研究成果に対応している※2。この3層に合わせて体系的なFDマップを作成し公開しているので見てもらいたい。
※1 竹中喜一、中井俊樹編(2021)『大学SD講座4 大学職員の能力開発』玉川大学出版部
※2 中井俊樹、西野毅朗編(2024)『大学FD入門』ナカニシヤ出版
「次から活用しよう」と行動変容を重視した研修
愛媛大学の実施している研修は、参加者の研修後の行動変容を重視している。研修後に参加者が「研修は楽しかった」や「研修は勉強になった」というよりも、「この内容を次から活用していこう」と行動につなげることを大切にしている。
カークパトリックの4段階評価法※3では、参加者が満足したか=反応、参加者が内容を理解したか=学習、参加者が内容を業務において活用したか=行動、組織の成果に貢献したか=業績という4つの観点で研修を評価できることを示している。

このモデルは、研修を単に個人の学習としてとらえるのではなく、長期的に確認される行動変容や組織への貢献を視野に入れることの重要性を示唆している。
そのため、研修を設計するうえでは、研修後の行動変容を念頭においた目標設定のもとで、知識を活用する場面をグループで検討するなどの時間をとっている。また、研修の終了時には研修で学習した内容を活用できるかどうかを参加者アンケートで確認し、研修の改善につなげている。
※3 Kirkpatrick, Donald & Kirkpatrick James (2006) Evaluating Training Programs: The Four Levels, 3rd Edition, Berrett-Koehler.
所属する組織の発展に寄与する組織開発を重視した研修
愛媛大学が実施している研修には、参加者の行動変容の段階を超えて、参加者の所属する組織の発展を目指した研修があることも特徴だ。例えば、研修を通して個々の参加者のカリキュラムの理解を促しながら、所属する組織のカリキュラムの改善につなげていくことを目的とした研修を提供している。
そのために研修を開催するうえでいつくかの工夫をしている。まずは、参加者の条件を定めていること。組織開発につなげるには、組織に影響を及ぼすことができる者が参加することが重要だ。とくに広く参加を周知する研修においては、テーマに関心はあるが、組織でその知識を活用できない者が参加申し込みを行う場合もある。そこで研修のテーマに関する経験年数を参加の条件としている。
さらに、研修当日までの事前学習を課すようにしている。研修にあたっての基礎知識を習得したり、研修テーマに関する所属大学の特徴や課題をワークシートで明確にしたりするなど、参加者が頭の中を整理したうえで研修に参加してもらうようにしている。