「リアルいじめ」と強い相関、学力上位層の高校生「ネットいじめ」が増えた理由 背景に「環境変化によるストレス」や「いじり」
ストレスの原因は、コロナ禍による環境変化だけではないようだ。原氏はもう1つ、「評価方法の変化」を挙げる。これまでのような学力一本の評価ではなく、主体的に取り組む態度などを含めた観点別評価が導入された。「多面的な評価自体は悪いものではありませんが、生徒からすればあれもこれも求められているように感じるのでしょう」と原氏は言い、こう続ける。
「さらに近年の大学は推薦入試が増えたこともあり、学力上位層の子は内申点を上げるためのネタを求めています。この層は期待に応えられるポテンシャルが高いこともあり、小さい頃からさまざまな習い事をこなしてきた子が多い。こういう子は、大学入試のためには勉強だけでなく、生徒会や部活の役職に立候補する、短期留学やボランティアに挑戦するなど、あれもこれもやらなければという意識になりがち。でも、しんどいと言えない。その苦しさがストレスとなり、ネットいじめにつながっているといえます」
2020年の大規模調査から3年経ったが、ネットいじめの増加傾向は今も続いているのだろうか。
「阪神・淡路大震災や東日本大震災のときも、学校が荒れたのは震災直後ではなく、3〜4年後という指摘もあります。その理由は諸説ありますが、日常が戻ってきた頃にストレスが顕在化しやすいと考えられています。コロナ禍で子どもたちは相当な我慢を強いられましたから、今まさにそのストレスが顕在化していると思います。文科省の調査でも不登校といじめが増え続けていますが、ネットいじめは今後も増えるのではないかと思います」
「いじり」の固定化がいじめにつながる
原氏らの大規模調査では、ネットいじめはリアルないじめと地続きであることが明らかになっているという。
「調査前は、われわれもネットいじめとリアルないじめは内容も対象も別物だと思っていました。しかし、調査によって両者は相関関係が強く、リアルでしんどい子はネットでもしんどい状態で、逆も然りだということがわかりました。その背景にあるのが『いじり』です」
2013年のいじめ防止対策推進法により、近年、学校現場では「いじめはダメ」「被害者がしんどいと感じたらいじめ」という考え方が浸透した。しかしその成果の一方で、「『いじめはだめだけど、いじりはOK』と考えている子どもも少なくない」と原氏は指摘する。
「いじられる側は10回に1回はしんどいと感じていても、自分のプライドを守るため『これはいじりなんだ、目くじらを立てる必要はない』と自分を納得させ、一緒に笑い飛ばしてしまいます。これは心理学における自己合理化と言えるでしょう」
「ウザイ」と言われ、いじられた側が自尊心を守るために必死に笑っていると、何が起こるのか。
「いじる側は『いじってもいいんだ』と受け取ってしまい、今度は『キモい』と言う。それでも相手が笑っていると、さらに悪意がある言葉へとエスカレートしていきます。いじる側といじられる側が交互に変わる『回しの関係』が保たれている間はまだいいのですが、いじられる側が固定化され、みんなでよってたかっていじるようになるといじめになります。実はこれがネットでも起こるのです」
ネットで強まる「同調圧力のブースター」
いじりから発展する今のいじめは、リアルとネットを行き来するようだ。ただし、ネットいじめにはリアルいじめとは異なる特性があるという。
「ネットではリアル以上に同調圧力が生じます。例えば、遊びに誘われたときに対面なら『都合が悪い』と言えても、LINEグループで同じように断れる子は少ないもの。明治大学 の内藤朝雄さんも指摘しているように、サイバー空間では『同調圧力のブースター』が働くためです。例えば、SNSで誹謗中傷を受けた若い女性が亡くなった事件がありましたが、ネットでは『みんながやってるから』と集中的に攻撃してしまう。一度ターゲットになったら誰も助けてはくれず、その人が自暴自棄になるまで誹謗中傷が続きます。それがネットの危ないところであり、ネットいじめの残酷な構図なのです」