旭化成が「電池材料」で中国大手と組む裏事情 競合と敢えての「呉越同舟」で一石三鳥を狙う

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セパレーター(絶縁材)の出荷量で世界2位の旭化成が、首位の中国・上海エナジーと「呉越同舟」で中国市場に本格進出する。その真の狙いとは。

旭化成傘下の米国企業が製造する、リチウムイオン電池の主要材料のセパレーター。「乾式」と呼ばれる種類のもので、ESS用途に適している(写真:旭化成)

リチウムイオン電池の主要材料であるセパレーター(絶縁材)の出荷量で世界2位の旭化成が、電力貯蔵システム(ESS)用途で中国市場の開拓に乗り出している。2021年9月に世界首位の上海エナジーと提携し、互いの完全子会社からの出資経由で合弁会社を設立。2022年上期に中国の江西省高安市に工場を設立し、生産を開始する。

旭化成の提携の表向きの理由は中国での需要獲得だが、実は狙いはそれだけではない。競合相手と敢えて手を組んだ裏には、その他に2つの大きな理由がある。

ESSは有望な分野だ。脱炭素の機運が急速に高まっていることを背景に、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの電力を貯めるESSは世界的な需要増が見込まれている。富士経済の推定によればESS用途の2020年のセパレーターの出荷量は世界で1.9億平方メートルだが(予測値)、2030年の市場予測には5倍以上の10.2億平方メートルに拡大する見通しだ。

中国のESS市場は有望

中でも中国には、政府による補助金を含めた脱炭素支援策という追い風がある。旭化成でセパレーター事業を担当する福田明グローバル戦略担当部長は、「中国のESS市場はこれから急速に立ち上がるので、このタイミングでの(合弁会社の)立ち上げになった」と説明する。

セパレーターには乾式と湿式の2種類がある。湿式には高容量や安全性という特性があり、電気自動車(EV)や民生(ノートパソコンやスマートフォンなど)用途のリチウムイオン電池向けを中心に幅広く使われている。一方、乾式には高出力や長寿命という特性があり、湿式と比べてコスト面にも優れる。ESSに適しているとされるのは乾式の方だ。旭化成は双方の技術を持つ二刀流だが、上海エナジーは湿式を得意とする一方で、乾式では高い技術を持ち合わせていない。

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