米国における司法と政治の対立のドキュメント
評者 東洋英和女学院大学客員教授 中岡 望
評者は長年米国政治を研究してきたが、トランプ大統領ほど、人格性や倫理性、政治能力が問われる大統領は存在しない。反対者の批判にとどまらず、政府内からもトランプ大統領の指導者としての資質を問う発言が相次いでリークされ、閣僚たちは自分の発言ではないと自己弁護に躍起になっている。
最近ではウォーターゲート事件をスクープしたジャーナリストのボブ・ウッドワード氏の著作『Fear』やニューヨーク・タイムズ紙の政府高官の匿名告発記事などがトランプ大統領の問題点を明らかにしている。
本書の著者はトランプ大統領に解任された米国連邦捜査局(FBI)前長官で、トランプ大統領の指導者としての資質に疑問を提起している。「指導者の倫理について検証することが役に立つ時期があるとすれば、それはまさに今なのである」と、本書の執筆動機を説明している。
大統領選挙の投票日直前にFBIはクリントン候補の私的電子メールを使っての機密漏洩疑惑の調査を行うと発表した。そのことが同候補の落選を招いた要因であるといわれている。著者は、その決定を行った人物である。この決定で著者は保守派の喝采を浴びた。だが、それは著者の本意ではなかった。「私の決断が選挙の結果に影響を及ぼしたかもしれないと考えると、軽い吐き気を催す」と述懐する。
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