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傲岸なメディア人に陥らない為に確認したい道標 ジャーナリズムという「いかがわしい」世界の中で

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  • 青木 理 ジャーナリスト、ノンフィクション作家
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しかし、原器のようなものが求められるのは重さや長さの世界に限らないように思う。たとえば私が禄を食むメディア界でも、有象無象の情報に日々接したり雑務に追われたりしているうち、物事を考える際の軸や見当識がズレてきているような気がして狼狽し、あの人ならどのように考えるかと、常に立ち返って参照する原器のような先達がいる。私にとって辺見庸さんは、そんな存在のひとりである。

だから久々の刊行となる辺見さんの時評集『コロナ時代のパンセ』(毎日新聞出版)もすぐに読んだ。そして今回に関しては、自分の立ち位置や軸のズレを感じて自戒するより、決してズレていなかったことを確認し、同時に時代への絶望を一層深めた。たとえば〈「序」に代えて〉のこんな一文。

ジャーナリズムを標榜すればするほど

〈疫病根絶は疑いもなく人類史的使命である。しかし根絶にかこつけて非常事態を恒常化する見えない政治的意図がどこかではたらいてはいないか。社会はそれに荷担していないか〉〈まったく不思議というほかない。緊急事態宣言の発出をより強く求めたのは、じつのところ政治権力ではなく、民衆と野党であったのだ。私権の制限、自由の制約を厭わない人びとを果たしてわたしたちは想定していただろうか〉

そしてこんな一文も。

『破壊者たちへ』(毎日新聞出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

〈若いころ、ジャーナリズムの世界に身を置いていたのだが、一度としてそれが「真っ当」だと得心したことがない。どころか、ことさらにジャーナリズムを標榜すればするほど、そのじつ権力になずんだそれが「いかがわしい」ものに思われてしかたがなかった。肩で風を切る記者や傲岸な同業者に、おのれの似姿を見る心もちがするせいだろう、内心いくども舌打ちした〉

いずれも強くうなずく。ただ、かつて同じ通信社に属した先輩だからというわけではなく、私にとって辺見さんは作家であると同時に、いまなおジャーナリズムという「いかがわしい」世界の前線に立つ大切な道標であり、その世界の只中(あるいは底辺)で煩悶する私が正気を取り戻したい際に頼る同時代の原器。同じように考えている同業者は多く、こればかりは他に取って代えることができない。

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