子どもの「人生の選択肢」無意識に狭まる大問題 地方の限界を打開する「現代版寺子屋」の正体
こう話すのは、あしたの寺子屋創造プラットフォーム代表の船橋力氏だ。「塾」ではなく「寺子屋」としたのは、「人口3万人未満の町村では、子どもたちがいろいろな大人や生き方を含めた多様な情報に触れる機会がなかなかない」(船橋氏)からだ。もちろん学習支援も行うが、単に成績を上げるのではなく、外の世界に触れる機会を増やすことを目指している。
勉強を教え込む塾ではなく「寺子屋」が必要な理由
だから、勉強を教え込む学習塾ではなく、子どもたちがやりたいこと、学びたいことを個性に合わせて引き出す「寺子屋」というわけだ。こうした学びの場をつくる必要性について、船橋氏は自身の経験を基にこう話す。
「教育格差や学びの格差は、意識、情報、経済の格差に起因します。これまで私は、官民協働の留学促進キャンペーン『トビタテ!留学JAPAN』に携わってきました。より多くの高校生・大学生に可能性を広げてもらおうと、英語力や成績を問わない給付型の留学プログラムを提供してきました。このプロジェクトは、多くの企業が支援してくれていますが、それは企業が社会で必要な実践体験や修羅場を体験したタフでポテンシャルの高い人材を求めているからです。しかし、地方の公立高校に情報を発信しても、留学経験のある教員や親が少ないことから、その意味や価値がなかなか理解されません。
だからこそ、学校、先生、親を飛び越えてダイレクトに、寺子屋という場所で子どもの時からリアルな社会の実態や多様な生き方、専門性を追求する高校生・大学生のサンプルやロールモデルに触れる機会をつくりたい。そうして、早期にキャリアや留学といった将来に向けた“自分軸”をつくるさまざまな情報や機会を提供したいと考えたのです」

あしたの寺子屋では、各地の寺子屋をつないでネットワークを構築することも目指している。ICTなどを使って、「寺子屋長」同士が情報やアイデア、コンテンツを共有したり、各地域の子どもたちを交流させたいと考えているのだ。
「あしたの寺子屋は、子どもたちがいろいろな大人や世界と出合うための場所です。しかし、寺子屋長が持っている人脈や地域の人脈だけでは限界があります。そこで、プラットフォームをつくって各地の寺子屋や寺子屋長がつながれば、いろいろな生き方のサンプルを子どもたちに見せることができると考えています」
そこには地方の限界を打開したいという強い思いがある。人口3万人未満の町村となると、子どもが自分の可能性に気づいたり、仲間と切磋琢磨し合う環境としては限界がある。だから、あしたの寺子屋は各地の寺子屋を結ぶハブになるとともに、教材などのコンテンツを共有するプラットフォームの役割も担う。
子どもがいろいろな生き方の“サンプル”に出合う場所
すでに寺子屋長の募集、候補者に対する研修もスタートさせている。だが、何より重視しているのは理念の共有だ。「最初に事務局と寺子屋長希望者が面談を行い、同じ方向を見て歩いていけるかどうかを話し合う」と、あしたの寺子屋で事務局長を務める嶋本勇介氏は話す。
あしたの寺子屋は、子どもたちに新たな世界を見せることを最大の目的にしているため、お互いに意識のすり合わせが重要と考えているのだ。理念の共有ができたところで研修を受け、子どものやる気を引き出すコーチングや学習支援に必要なスキル、そして寺子屋の運営に必要な経営ノウハウなどを身に付けるという。