伝統の進学校「iPadをどう使うかは自由」の真意 「これダメ、こう使え」言わない城北のICT教育
「16年以前は、教職員が職員室でインターネットを使って教材を研究するくらいしか、ICTを使っていませんでした。それを3年間で、教室だけではなく講堂やプールに至るまで、校内全域でインターネットに接続できる環境をつくり、生徒全員がICTを活用できるよう端末も用意するという計画を立てたのです」と話すのは、同校のICT活用を主導する清水団氏だ。

16年にはWi-Fiのアクセスポイントを校内に100カ所以上設置。通信障害でWi-Fiがつながらない事態に備え、携帯電話の回線に対応しているLTE端末を導入した。デバイス(iPad、Apple Pencil、Smart Keyboard)も360セット購入、現在の保有数は500セットに達している。さらに精緻な作業ができるようMacBookも50台追加。また、中学・高校合わせた全50教室に大型モニターとApple TV、AVシステムなどをセットにした「ICTユニット」も配置した。17年4月には前述のiRoomが完成するなど、設備は充実している。
こうしたハードウェアを使って、どのような教育を行っているのか。
「まず、中学1年から3年生の間は総合学習の時間を使い『情報』の授業を行います。タイピングやプライバシー、セキュリティーにおける注意事項のほか、印象操作などの情報リテラシーを身に付けてもらい、その後、動画作成やプログラミング、プレゼンテーションの仕方、課題解決型学習へと発展させていきます。ソフトバンクのロボット『Pepper』にコーディングして、自分たちに代わってプレゼンテーションさせることも行っています」
重要なのは、ICTスキルを磨くための授業ではないことだという。
「これは私自身が今後の教育について悩みを抱えていたときに、海外研修で出合った『スクラッチ』というプログラミング言語の開発に携わったマサチューセッツ工科大学メディアラボのミッチェル・レズニック先生の言葉でもあるのですが」と前置きしながら、清水氏は城北のICT教育の理念を次のように語る。
「何かを探究したい、問題を解決したいといった内発的な動機、クリエーティビティーが学ぶうえで非常に大切です。そのチャレンジを成功に導くポイントが4つのPです。情熱(Passion)を持って、仲間(Peers)と共に、リスクを取って新しい課題(Projects)に向けて、協働(Play)していくこと。これがこれからの時代に欠かせません。そして、この4つのPの前に立ちはだかる壁を乗り越えるために必要なのが、ICTだと考えています」
「できない」を「できる」に変えるワクワク感を生徒たちに
例えば、これまでなら自分たちには力がない、無理だと諦めていたことも、今の時代ならパソコンが1台あることで、あるいはプログラミングができたり、AIを使ったりすることで「できない」が「できる」に変えられることがある。
「ICTを使えば自分にもできるかもしれないという生徒たちの気持ちを、私たちは支えたいのです。だから、ハードウェアもソフトウェア(アプリケーション)も、生徒たちの思いに応える機能を備えた魅力的なものを導入したいし、あれもダメ、これもダメという規制を設けたり、こういう使い方をしなさいといった指導をしないようにしています」