Introduction ―イントロダクション―
日本企業にとっての「グローバル化」を問い直す
日置 圭介 デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー

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日本企業のグローバル化を阻む2つの真因?

実は、グローバル本社のあり方を検討する過程において、日本企業のグローバル化を阻んでいるのではないかと思われる2つの真因に気づかされます。

1つは物事を曖昧にすることで、バランスを取っている気になっていることです。権限と責任のあり方がこの典型です。しかし、グローバル経営に挑むのであれば、日本人だけでどうにかできるものではないので、阿吽は通用しません。

もう1つは何かおかしいぞと認知しているものの、このままいけるんじゃないか、誰かが何とかしてくれるのではないかという受け身の姿勢です。言い換えるならば、変化を生み出す1 人ひとりの意志やリーダーシップ、リスク感度の不足といえるかもしれません。

であればこそ、個々人がしっかりとした意志を持った上、リスク意識を高くして、自らが変化を加速するような気概を持つ必要がありますが、本社という企業経営に重要な組織においてですら、そのような姿勢が見られないことも少なくありません。これでは、将来の強いリーダー候補となりうる、人とは違う発想力とリスク感度を持って行動する異才な人材を生み出すための土壌も限られてしまいます。

したがって、このテーマに取り組むことは、多極化や非連続の変化がキーワードである時代における日本人の立ち居振る舞い方を考え直す機会にもなると考えています。

日本企業が再び輝くために

日本企業に対してネガティブなトーンで話をしてきましたが、これまで積み上げてきたものは決して小さくありません。自社内のクローズドなリソースのみならず、外部とのオープンなネットワーキングによるコアコンピタンスの増強など、戦うための武器はまだまだ持っています。あとはそれをどのように使いこなし、世界で稼ぐのか。言い換えれば、グローバルレベルでのマネジメントのあり方、経営戦略こそが問われています。

多極化したグローバル経済環境下において、非連続な変化に対応し、稼ぐためには、外部のビジネスパートナーとの連携を含め、組織体としてさまざまな柔軟性が要求されますが、そこに軸がなければ、振り回されるだけになります。したがって、企業が拠って立つことのできるビジョンや価値観、制度などの軸をいかに持たせ、経営を実践する組織の体幹を整えるかということが重要になります。1つ目の論考テーマとして、これを、「グローバル化の動きに組織を適応させる」と題して議論しています。(本書p.32~p.39参照)

次に、グローバルレベルで多極化するマーケットに対し、本当に全方位的な対応をすべきなのかが、限られた経営資源しか持たない各企業は問われています。どの市場やどの事業に「張る」のかを決める必要があり、この判断の際にも、何らかの「軸」が求められます。これについては、現代の日本企業にとって非常に重要な戦略実行の手段であるM&Aを題材に、「成長を持続させるために必要なM&Aによる事業の取捨選択」というテーマで議論を展開しています。(本書p.40~p.55参照)

3つ目は、リーダーシップについて考えています。経営環境が比較的安定していた時代は問題なかったのかもしれませんが、そもそもそのような期間はレアケースであり、非連続な変化が発生しうる現在のグローバル化環境こそがリアルな世界です。このような状況下においては、Back to Basic、企業経営の原点に立ち戻り、戦後の創業経営者たちが行ったような、真に長期的なビジョンに基づく戦略を描き、リスクを厭わずに実行するリーダーシップが求められているのではないでしょうか。その一方で、誰もがリーダーに向いているわけではないという厳然たる事実もあります。そこで、第二の創業期において「グローバル時代に求められるリーダーシップ」について深掘りしています。(本書p.56~p.63参照)

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