Introduction ―イントロダクション―
日本企業にとっての「グローバル化」を問い直す
日置 圭介 デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー
苦戦する日本企業
次に日本企業の現在のプレゼンスを確認すると、こちらも厳しい状況が見て取れます。たとえばフォーチュンの企業ランキングを見ても、上位500社に入る日本企業の数はここ20年で4割近く減少しています。同様に、米国企業もその数を大きく減らしていて、一方で新興国企業の割合が一気に増加しています。その背景にあるのは、先ほどから見ている経済環境の変化、米国一極集中型から多極型への移行です。アジアを中心とする新興国がきわめて大きな経済力を持つようになってきたことから、米国などの少数の先進国で事業を成功させるだけでは大きく儲けることができない環境になっています。
この流れに乗り切れていない日本企業に話を戻しますと、その業績もやはり冴えません。一時期、株主至上主義うんぬんの議論が盛んになったこともありましたが、それを論じる資格がある水準には程遠く、多くの日本企業がうたっている顧客や社会への貢献を重視した長期的経営を果たしていくにも、サステナブルとはいえない状況です。
なぜ日本企業は凋落したのか
凋落原因はそれだけではなく、企業行動にも問題はありました。隆盛だった頃とは取り巻く外部環境が大きく変化したにもかかわらず、過去の成功体験やその際に生まれたしがらみに縛られてしまい、現在のグローバル環境への適応ができずにいる、というのが凋落の本質といえるのではないでしょうか。
IMD(国際経営開発研究所)による有名なWCY(国際競争力年鑑)でも、国際経験が豊富で優秀な管理職の少なさや彼らに対する教育の不足、海外の優秀な人材を引きつけることが難しい職場環境、未知な領域に挑戦する意識が低いなど、日本企業の今後のグローバル化を想う際に、気持ちが萎えそうになる項目が数多く挙げられています i )。
過去を否定することで、学びを獲る
日本は輸出中心で成長を続け、1990 年頃までは安定成長を、バブル後も失われた10年、20年といわれ、瞬間的にマイナス成長になりながらも、過去の遺産で低成長が続きました。そのため、閉塞感を感じながらも、何かを大きく変えることができないまま時が過ぎていきましたが、大きな潮目が先の金融危機後に現れ、戦後初めて2年連続のマイナス成長を経験、経済的な地位も世界第2位から第3位へと後退し、ようやく本気でまずいと思い始めている人たちが増えました。けれども、気を抜くとすぐに、「このままいけるのではないか」と思ってしまうところが、慣性によって流されがちな日本人の悪癖なのかもしれません。
この点、アメリカが立派だと思うのは、1980 年代初頭、製造大国の座を日本に奪われた際に、そのような状態になった経緯をしっかりと分析、反省し、次の手を考え、新たなビジネスのゲームを作り上げたことです。ニューエコノミーと呼ばれる世界でした。一方で、意図していたかどうかは知る由もありませんが、Japan as No.1 と日本を褒めたたえるような論文も同時に発表し、日本企業を有頂天にさせることも忘れておらず、とても上手だったなと個人的に思っています。
反面、称賛に浸った日本企業は、いまだに過去の成功を引きずっているかのように見えます。確かに、当時の外部環境に対しては非常に適応していた日本型経営であったことは間違いないですが、単純にあの頃に戻ることが強い日本企業の復活ではありません。何が成功のエッセンスで、何がグッドラックだったのかを冷静に分析するとともに、何が現状をもたらしているのかを反省し、失敗から学ぶという姿勢が、今のグローバル環境に適応する経営モデルを構築していくためには欠かせないのではないでしょうか。