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〈ショパンコンクール〉ヤマハが"スタインウェイの牙城"に挑む意義――コンクールは「400mリレー」、総合楽器メーカーの強みと葛藤

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――100年近い歴史を持つショパン国際ピアノコンクールで、ヤマハが初めて公式ピアノに採用されたのが1985年。そして2010年、ヤマハの「CFX」を使用したユリアンナ・アヴデーエワ氏が優勝したことは、大きな節目でした。

松木温(まつき・ゆたか)/1992年入社。入社以来、ピアノの開発・製造・マーケティングを手がける。2012年ピアノ事業部生産部GP組立課長、15年楽器開発統括部アコースティック楽器開発部長を経て、18年楽器事業本部開発統括部長、19年同ピアノ事業部長。20年より執行役員(記者撮影)

実をいうと、私はそのときすでに帰国していて、歴史的な瞬間に立ち会えなかった(笑)。当時は、私が開発を担当していたCFXを世に送り出した年だった。開発者にとって、製品をローンチした後はコンクールの現場でできることは何もない。「すべてを出し尽くした」という気持ちでいた。

だから優勝の知らせを日本で聞いても、すぐにはピンとこなかった。「もっと喜ぶべきだった」と、後になって後悔したほどだ。調律を担当した片岡(昌彦氏)も、その瞬間は別のホールでガラ・コンサート(入賞者演奏会)の準備をしていたと聞いている。

――片岡さんもプロフェッショナルですね。

コンクールはピアニストが主役の真剣勝負の場だが、メーカーにとっては400mリレーさながらだ。設計者が第1走者、製造など複数のプロセスを経て、第3走者として調律師が最高の状態でバトンをつなぎ、最後のアンカーであるピアニストに最高のパフォーマンスで走り切ってもらう。

誰か1人でも欠ければ、優勝というゴールにはたどり着けない。フルコンサートグランドピアノとは、そうしたメーカーの総合力が試される。過去大会では、そのバトンタッチがうまくできたのだと思う。

ヤマハが選ばれた理由

――ショパンコンクールのピアノセレクションの場では、各出場者が10〜15分で数台のピアノを弾き比べます。

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