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チケット代が5万円の公演も。密かに巻き起こる在日中国人「コメディーブーム」、知られざる源流

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スタンドアップコメディーの司会者(写真:筆者撮影)

3月上旬の雨がぱらつく肌寒い土曜日の午後、東京・池袋の雑居ビルの2階に向かった。扉を開けると、そこには中国の直接的な検閲とは無縁の“解禁区”が広がっていた。中国でここ数年人気を博しているスタンドアップコメディー(中国語では「脱口秀」)の公演が、まさに始まろうとしていた。

日本での暮らしをテーマに爆笑を誘う

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入り口で2500円を支払い受け取ったチケットの裏面の注意書きには早速、中国らしいユーモアがあふれていた。

「よい席は早い者勝ち。遅れて入場すると、演者にツッコまれるかも」「録音・録画は禁止。写真はOKですが、きれいに加工したうえでシェアしてもらえると助かります」「上演中の飲食はご遠慮ください。万が一のどに詰まった場合、救助できるのは演出家のみで、人工呼吸を施します」

開演前に渡されたアンケートにも思わず笑ってしまう。「性別は?」という質問には「男」「女」に加え「家に帰って確認します」という選択肢があり、「今後聞きたいテーマは?」には社会現象、日本での生活、恋愛、職場のほかに「量子力学の原理およびその応用」という選択肢まで用意されていた。

観客は十数人で、若い女性が目立つ。隣に座った中国人男子大学生によれば、「(中国の)テレビでは言えないような話」が面白いという。まもなく司会の男性が、台湾のバラエティー番組のようなくだけた語調で語り始め、会場は和やかな雰囲気に包まれた。

次々に登場するコメディアンたちは、日本での暮らしをテーマに爆笑を誘う。中国語で言う「吐槽(ツッコミ)」スタイルで、愚痴や風刺を交えた語りが続く。日本のお笑いと比べて、観客とのやりとりがはるかに多い印象だ。

この日の公演を主催したのは、2020年に結成されたスタンドアップコメディー集団「Amare」。所属するコメディアンは出演経験のある人で30人ほど。全員が本業を別に持つ兼業コメディアンだ。エンジニアとして働く出演者の1人は「中国国内のスタンドアップコメディー番組を見て、面白そうだと感じ、挑戦したくなった」と話す。

Amareは現在、月に2〜3回のペースで公演を開催。会場は池袋のほか、高田馬場や銀座など中国人が多く集まるエリアだ。主催者は黒竜江省ハルビン市出身の大宝さんで、2014年に来日した。彼自身も2019年に中国発のスタンドアップコメディー番組を見て興味を持ったという。観客の構成は社会人7割・学生3割で、女性が75%を占める。年齢層は20〜40代が中心だ。

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