与党大敗が示す「デフレ脱却」の賞味期限切れ 「手取り増」はさまざまな課題を詰め込めるフレーズ

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今回、自民党惨敗の主因は裏金問題であったとしても、上述するように物価高に喘ぐ国民生活も確実に支持率を蝕んだと言える。その背景に円安があったことを国民も理解している。

ここからは推測の域を出ないが、その円安の遠因が緩和的な金融政策であったという点にまで理解が及んでいる国民も少しずつ増えているのだろう。

今回、公約の中で自民党がはっきりと金融政策運営についてメッセージを発したわけではないが、石破首相が就任直後、緩和継続の要望を口にしたことは大きく報じられた。

財政・金融政策運営についてタカ派的なイメージの強い立憲民主党が躍進した以上、背景として裏金問題という敵失があったのは間違いないとしても、政治は金融市場のご機嫌取りで弛緩した金融政策運営を促すのではなく、漸次的に円金利を上げることの意義と向き合う時期に来ているのではないか。

ちなみにアメリカでもユーロ圏でも利上げする時に世論の反対がないわけではない。独立した中央銀行がその必要性に鑑みて決断しているだけであり、日本にもそれが望まれている。

円安・低金利に終止符を打つ

もちろん、タカ派的な金融政策の必要性を説くのは政治的にも勇気を要する。この点、国民民主党が「手取りを増やす」とのメッセージで若年層の支持を取り込んだのは巧妙だった。

「手取りを増やす」というフレーズは一度にいろいろな政策課題にアプローチできる。改革の本丸であるべき社会保障費問題はもちろん、円安を助長している実質賃金を押し下げる金融緩和への牽制にもなる。原発再稼働をにらんだエネルギー政策にも絡んでくる(同党は原発活用に前向きである)。

今後も「手取りを増やす」は使い回されていく可能性が高いし、それは悪いことではないように思える。

現状では「実質賃金の低迷」の遠因となっている円安や、これとセットと考えられている円金利の低位安定に終止符を打つことが、実体経済が復調するための迂遠な道に見えて実は王道ではないのか。

過去の本欄では「デフレ脱却」という文言について、「四半世紀が経過し、今やその定番のフレーズは廃れ、国民の反感を煽りかねない意味を含み始めている。この点は石破政権に限らず、為政者は早めに気づいたほうがよい事実に思える」と案じた。

今回、「3年でデフレ脱却」を強調した自民党が大敗を喫し、金融緩和修正の必要性を説いた立憲民主党や手取り(≒実質賃金)の重要性を訴えた国民民主党が躍進した事実を踏まえれば、「もうデフレ脱却という手垢の付いたフレーズはほとんどの国民に刺さらない」と考えるべきではないか。

もちろん、立憲民主党の公約にある物価目標「0%超」という表現はやや極端すぎるので適切とは思えず、支持はできない。しかし、政府・日銀の現行の共同声明において2%物価目標実現を「できるだけ早期に」の部分をカットするくらいの話はあってもよいように思われる。同党幹部のコメントを見る限り、それでも企図するところとして十分と察する。

争点はデフレではなく、もはやインフレなのである。正しく患部を診断しなければ、正しい処方箋は与えられない。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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