奈良県宇陀市がエストニアと教育を軸に連携、「覚悟」を持って臨む理由 人口2万7000の市と電子国家に共通の「危機感」
「日本人は見て終わり」の空気を打破した覚悟と熱意
もちろん、外国での経験は、とくに若者の価値観を大きく変える。どこに行っても大なり小なり成長はするだろう。しかしKEY氏も甲賀氏も、「パートナーがエストニアであることの意味は大きい」と口を揃える。KEY氏がその理由を説明する。
「エストニアは長く旧ソ連に統治されてきました。ソ連崩壊時には『残ったのは人の知恵だけ』と言われていたそうです。その危機感から教育に大きく投資し、とくに近年はPISA(OECD生徒の学習到達度調査)でも上位に位置しています」
ITにも注力しており、オンライン申請の行き渡った「電子国家」としても知られる。最も有名なスカイプを始め、世界的に評価されるユニコーン企業が生まれる国でもある。アメリカでも事業を拡大する自動運転ロボット企業「Clevon(クレボン)」も好調だ。
「エストニアはまさにアントレプレナーシップ教育の国であり、自分で考える力を養っている国。一緒にイノベーションを起こすことを大事にする国でもあります」
KEY氏曰(いわ)く、そんなエストニアでは「日本は見に来るけれど見て終わり。そのあとの発展がない」というイメージが一部に根付いているという。その空気を打破し、宇陀市は単なる視察や見学に終わるつもりではないことをわかってもらう必要があった。
「宇陀市は人口減少と市の衰退に危機感を持ち、覚悟を持って臨んでいるという熱意を伝えて、やっと始動したプロジェクトなのです」
そのため、中学生の短期留学に同行した教員や市職員も「単なる視察」で帰るわけにはいかなかった。甲賀氏は「先生も『授業のやり方がまったく違う』など、たくさんの発見をしていました。私自身も何度か現地に行っていますが学ぶことが多く、教育だけでなくさまざまな視点から市を盛り上げることを考えています」と言う。
そんな大人の覚悟も伝わったのか、子どもたちも短期留学に熱心に取り組んだ。現地ではVIVITAで簡単なプログラミングを経験したほか、サーレマー市の高校では3日間の集中プログラムを受けた。
自主性にあふれる生徒会活動の様子を生徒会長から聞いたし、サーレマー市長にもぶっつけで会って質問をした。もちろん通訳は入ったが、「市長の仕事で難しいことは何ですか?」「学生時代の成績はどうでしたか?」など、自分の言葉で問いかけたという。

子どもたちは激変、教育と産業振興の同時プランも進行中
帰国後に行われた市の報告会では、子どもたち自らが司会を務めた。台本は大人が用意したが、アドリブも入れながら自らの言葉で進行し、「宇陀市をよくするには」と積極的に発言した。さらにエストニアに行った10人のうち5人が、自分の通う中学校の生徒会役員に立候補したそうだ。