受験のための学びを脱し、公立小中学校でこそ「探究」に注力すべき理由 市教委が学校を全力サポートする埼玉県幸手市

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「受験のための学力向上を求められてきた先生たちとしては、探究学習で必要な力がつくのかと疑問に感じてしまうのでしょう。でもこれからの社会で必要とされる力は本当にその『学力』なのか、考えてもらわなければいけないタイミングがきていると思います」

これは大学受験を控える高校にもいえる問題だが、実際に、探究の時間が単純な進路指導の内容に充てられていた例もあるという。だが、幸手市が着手した探究学習の実例を見ると、公立小中学校ならではの特徴やメリットが見えてくる。

まず、地域の課題に目を向けることが自分の暮らしに直結することは、公立小中学校ならではの強みだ。幸手市では長年、テーマに沿って小中学生が市政の改善点を提案する「子ども議会」を実施しているが、近年はこれを探究の学習にも活用。政治参画の意識とともに、市政への関心も生まれる一石二鳥の取り組みとなっている。さらに今年度は、市職員の政策発表会の場で、プレゼンテーション講座を受けた子どもがその成果を披露する機会を設けた。「子どもたちの発表はすばらしく、その後に発表する大人がプレッシャーを感じるほどでした」と奥澤氏はほほ笑む。

また、この6月からは小5から中3の子どもを対象に「デジタル・シティズンシップアンバサダー養成講座」を予定している。講座を修了した子どもを大使に任命するのだが、彼らに今度は市民向けのデジタル講師になってもらうことも検討しているそうだ。実現できれば、これもまた複数の利点がある。

「最近ではマイナンバーカードの取得など、インターネットを使った手続きに戸惑う一人暮らしのお年寄りは市内でも少なくありません。学校の成績が振るわない子どもも、ICT機器やデジタルの使い方には長けていることが多くあります。学んだことを生かして講師を務めることは、そんな子どもたちの自信にもつながると考えています」(大西氏)

多様な子どもが集まる公立校でこうした取り組みを行うことには、デジタル教育以上の大きな意義があるだろう。

「デジタル・シティズンシップアンバサダー養成講座」の募集要項。全4回の連続講座だ

奥澤氏は今後の展望を次のように語った。

「先生方に任せきりにするのではなく、市としての努力も続けていきたい。2023年には事例を紹介したり情報を共有したりするためのPBL専用サイトを開設する予定です。また、デジタル・シティズンシップの成熟には適切な発信も重要です。そのために、子どもたちの取り組みの成果をどう発信していくのかも考えているところです」

「先進的な自治体に話を伺うと、驚いてしまうぐらい、幸手市はまだまだ課題が多い」と言うが、奥澤氏自身も課題を解決していくことを楽しみにしている様子がうかがえる。子どもだけでなく、教員も教育委員会の担当者もワクワク感を持って進む幸手市の探究学習。これからの発展を、ワクワクしながら見守りたい。

(文:鈴木絢子、撮影:風間仁一郎)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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