過去数千年にわたって人類が直面してきたあらゆる困難のなかで、疾病は常にとりわけ残忍で計略に富んだ敵だった。
疾病は歴史の形成に大きな影響を及ぼしてきた。アメリカ先住民は、スペインの征服者がメキシコと南米にもたらした病気によって大きな被害を受けた。ジョン・キーツの詩にうたわれる「屈強なコルテス」には、天然痘、麻疹、インフルエンザ、チフスなどの致死性疾患が同行していた。新世界の先住民はユーラシア人のように数千年をかけて動物やその疾患と共に進化したわけではなかった。そのため結果的に、16世紀、17世紀にアメリカ先住民の人口は約90%も減少した。
ナポレオン軍の敵だった「チフス将軍と結核将軍」
一方、ヨーロッパでは、疾病との闘いは中世末期からルネサンス期初期にかけて政治権力と国家統治の発展を促す要因になった。
イタリア北部の都市国家やその他の地域の当局は、黒死病など致死率の高い疫病を、公衆衛生の強化と隔離の強制によって食い止めた。ヘンリー8世のイングランドや他のヨーロッパ諸国は隔離病院を開設した。後に、アメリカ合衆国は、黄熱病その他の流行病との闘いを一つの理由として、公衆衛生サービスを発展させた。
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