東大「異才発掘プロジェクト」の看板を替えた真意 ROCKETからLEARNへ、挑み続ける居場所づくり
自治体や学校との「LEARN in Public Schools」もある。例えば広島県と東京・渋谷区では、ROCKETで行うプログラムに不登校の子どもが出席扱いで参加できる体制にしてきたが、LEARNでも引き続き連携するという。特別支援教育におけるICT活用「魔法のプロジェクト(ソフトバンクとの共同研究)」も継続する。
「僕らだけでなくいろんなオルタナティブな学びと学校が連携すれば、もっと学びは多様化していくと思います。例えば数学が得意な子は、堂々と学校を休んで外で学べるようになる。今議論が始まっているギフテッド教育もそれでよいのではないでしょうか」
興味を持ったことがその子の答えだ
こうしたプログラムをそろえ、LEARNのウェブサイトから、その子に合ったものを見つけて応募してもらう。本人の志願だけでなく親の推薦もOK にした。プログラムは今後も増えていく予定だが、「思想は1つ。『学びは自由。時間や空間を超えて学べばいいし、普段生きている中で学ぼう』という方針です」と、中邑氏は話す。
もう1つの教育方針は、「目的なき学び」だ。放っておくことが重要だという。
「学校でやっているのは、答えを追い求める学びや評価を得る学びですが、そうやって目的を設定すると正しい答えが決まってしまいます。でも、目的なしにやると正しい答えがなく、たくさん答えが出てくる。例えば先日、エミール・ガレなどのガラス作品が展示されている小樽芸術村 似鳥美術館で行ったプロジェクトでは、『虫を探しておいで』というミッションを出しました。すると、作品に描かれた虫を見つけてくるだけでなく、技巧に魅了されて作品の作り方を考える子、照明のカッコよさに着目する子も出てきました。でも、それでいい。『虫を探せ』はきっかけにすぎず、興味を持ったことがその子にとっての答えであり学びなのです」

今の世の中は「こうあらねば」が強すぎると中邑氏は指摘する。
「学習指導要領もガチガチに設定され、学びも点数化されている。STEAM教育だって点数で評価されがちです。ギフテッド教育もオルタナティブ教育の1つになるといいですが、人を評価する軸となっていくことを危惧しています。科学技術が進んだ今、膨大な知識を学ぶには、効率よく組織的に教わらなければトップレベルまでたどり着けませんので、そういう教育の流れがあることは理解できますし、否定しているわけではありません。しかし、そればかりでは世の中はつまらなくなってしまう。もっと自由な発想の中でいろんな事象を考えていくことを子どもの教育に組み込まないといけないと思います」
テストの点数で成績が決まり、いい学校に入っていい会社に入ることを目指すような昭和モデルの流れのままでは、「イノベーションは生まれない」と中邑氏は言い切る。
「よく平等が強調されますが、みんなが同じことをできるわけはないんです。そもそも世の中は不平等。だけど、人生を楽しむことや学ぶことの楽しさを教えることはできると思うんです。小学校まではそれを徹底的に教え、『あとは好きにやれ!』でよいのではないでしょうか。そして互いを認め合い、違うことをやっている人と手を組むという教育をしたほうがいいと思います」