BYOD始めた都立青山高校「ミスターICT」の執念 「オンライン授業」こだわった試行錯誤の舞台裏

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ところが、5月下旬から分散登校が始まると再びICT活用はトーンダウン。小澤氏が「コロナの第2波は来る。オンライン授業日を設定しよう」と呼びかけても理解が得られず、自宅学習日にオンライン授業に取り組む教員も一部にとどまった。

そんな中、頼もしい助っ人が現れる。現役大学生の卒業生が、オンライン授業のサポートを申し出てくれたのだ。機材のセッティングや録画の手伝いなど何でも対応してくれたおかげで、土曜日の受験生向け講習や夏期講習の一部をオンラインで実施できたという。

また、その卒業生はほかの卒業生を50名ほど集め、生徒たちの学習相談に乗る「LINE質問箱」も開設してくれた。これとは別に、日頃自習室に教えに来ていた卒業生のチューターも、Zoomで「オンライン質問室」を開いてくれたという。

ICT化が加速した訳とは?

卒業生のICT支援もあって何とか学びを止めることなく2学期を迎えると、若手を中心に教員たちがオンライン授業の研究に励み始めた。そのきっかけについて、小澤氏は次のように語る。

「休校中の勉強量について生徒たちにアンケートを取ったら、多くの生徒が1時間未満しか勉強していなかった事実が判明しました。やらなかったのではなく、やれなかったのでしょう。とくに1年生は入学式もなかった。やはりいい指導や教育がなければ主体的には取り組めないのです。課題を郵送して安心していた先生方も『しまったな』と思ったのでしょう。『来年度からBYODにするぞ』と改めて宣言したことも、先生方の背中を押したのかもしれません」

こうしたことから週2日は「オンライン授業日」とし、年明けには3日間の「オンラインウィーク」も設けた。この1年のオンライン授業の成果について、小澤氏はこう話す。

「数学や現代文はライブ配信が適していますが、地学・歴史などはスライドや音声などで繰り返し視聴できるオンデマンド型のほうがいい。英語はアクティビティーが大切だからZoomのブレイクアウトルームのような形が向いています。試行錯誤したからこそ、こうした知見を積み重ねることができました」

このほか、保護者会や大学入学共通テストの出願指導、進路ガイダンスなども密を避けるためにZoomで実施した。都教委が採用した「Microsoft 365 Education」、とくにTeamsの活用もだいぶ進み、動画や課題の配信提出、教職員間の校務連絡がスムーズにできるようになったという。都教委の「学習データ等の活用方法研究」にも協力した。

生徒の活動にも変化があった。昔から自由な校風とともに、生徒主体の学校行事が有名な青高だが、コロナ禍ではすべての行事が中止。とくに全クラスが劇やミュージカルに取り組む伝統行事「外苑祭」の中止は衝撃が大きかったようだが、その中でも生徒たちは新たな形を模索したという。

1年生は芝居に挑戦。その動画を21年3月に校内オンラインで開催した学習成果発表会で発表
(写真:青山高等学校提供)

「まず3年生がクラス全員出演の動画を制作し、オンライン学習成果発表会で配信しました。それを見た2年生が『私たちも』と署名を集めてやってきて、同じくオリジナル動画を制作。その後1年生は青高の伝統を継承しようと芝居に挑戦し、それを動画に収めて発表しました」

ついにBYODがスタート

このように20年度の青高は、さまざまな場面でICT化が進んだ。21年度からは小澤氏念願のBYODもスタート。都教委の「BYOD研究指定校」(18年~20年3月末の研究事業)ではない都立高でのBYODはまだ珍しいという。新入生にはiPadを購入してもらい、3年かけて生徒全員「1人1台」を目指す。不足している教員用パソコンは、学校予算で毎年iPadを7台ずつ購入し、数年かけて全員分の端末整備をしていく方針だ。

この1年間で、教科科目の特性によってICT活用の仕方がかなり違うことがわかってきたため、21年度は研究期間とし、引き続きオンライン授業日も設け、各教科のベストな情報端末の使い方をさらに検証するという。目下の悩みは、回線の脆弱さだ。20年末に教育庁の計画に基づきWi-Fi工事が完了したほか、学校独自のWi-Fiも自習室に整備したが、「一斉のオンライン配信にはまだ不安が残るため、工夫が必要になりそうだ」(小澤氏)という。

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