“公的資金注入制度”のどこが問題なのか、規律なき政府の介入はモラルハザードを生む

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米国オバマ政権は自動車メーカー救済を判断するために、投資銀行や労組の元幹部を中核とするタスクフォースを設立した。オバマ大統領は3月末、ゼネラル・モーターズとクライスラーがまとめた再生計画は不十分であり、経営者交代や債務のリストラ、同業提携がなければ公的支援はしないという厳しい姿勢を示した。この姿勢は、タスクフォースの検討結果を踏まえたもの。産業再生機構の支援可否を決める産業再生委員会委員長を務めた高木新二郎・野村証券顧問は「出資判断だけでなく、出資後も独立機関でのモニタリングが必要」と指摘する。

競争力を失った企業は淘汰されるのが筋

支援条件の矛盾も看過できない。出資を決める際の4要件の一つに「従業員数5000人以上など、国民経済への影響が大きい企業」とある。経産省の説明によると、「規模の大きい企業が破綻した場合には取引先も含めればその10倍の雇用に影響を与える。5000人の企業であれば5万人の雇用に影響を与え、0・1%失業率が高まる。0・1%というのは非常に大きな影響と判断した」というのが、5000人以上とした論拠だ。

だが出資を受けた企業は、効率化のために大幅な人員削減を断行するかもしれない。法案成立までの国会審議の過程でさかんに「雇用維持」という政治的要求を受けた以上、所管大臣は大規模な人員削減を認めるわけにはいかないのではないか。しかし、出資先に雇用維持を求めてしまえば、利益率改善、競争力向上はおぼつかない。明らかな問題先送りになってしまう。

米国では自動車業界の労働者に、収入補填や職業訓練などの援助を行うと発表。ミシガン州など自動車工場の集積する地域に、防衛産業やグリーン産業などを誘致する方針も示し、衰退分野から成長分野への人材移動を促すことにも注力している。米国の支援策にも難点はあるが、目指す方向は示されている。

競争力を失った企業が淘汰される一方、勝ち残った企業が雇用と設備に再投資し国際競争力を高めるのが資本主義経済のあるべき姿。その原則を、今回の制度は曲げかねない。

(週刊東洋経済)

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