スケーラビリティと日本らしさで
成熟した海外の旅行者を呼び込む 星野 佳路(星野リゾート代表)

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萩倉日本の大多数を占める中小企業、特に地方の企業の新陳代謝が進まないのは融資保証などを中心とした過保護な体質も影響していると思いますが、それと同じですね。やはり産業が活性化して競争力をつけるためには、健全な競争が不可欠です。

星野政府は、東京オリンピック・パラリンピックまでにインバウンド(海外からの観光客)を増やそうといっていますが、まずはこうした構造を変えていく必要があります。生産性の低いホテル産業が売り上げを上げても、それが雇用や設備投資につながるとは思えません。そもそも100 日に需要が集中することがわかっているから、雇用を臨時社員とパートと派遣スタッフに頼ってしまうのです。「休日の平準化」が実現されれば、人材の確保、育成やモチベーションの問題も解決されるのです。

萩倉電力などのエネルギー効率のことを考えても、国は「休日の平準化」について検討するべきでしょうね。

星野そしてもう1つ。「休日の平準化」と並んで重要なのがローコストキャリア(LCC)の発展です。あまり知られていませんが、世界の旅行者の3分の1はLCCを利用しています。日本の国内観光の最大の問題である交通費の低減には、世界の常識になりつつあるLCCを日本国内で発展させることが不可欠であることは明白なのです。

萩倉LCCは価格の安さが過度に注目されていますが、私は本質的な価値は別のところにあると考えています。それは、大きな荷物の運搬や機内での食事・サービスまでが選択の余地なくパッケージ化されたサービスを、乗客がどこにお金をかけるか自由に選択できるように変えたことです。このようにLCCの提供する価値を広く、多角的に見ていくと、さらなる発展につながるのではないでしょうか。ただ、海外ではセカンダリーエアポートを活用することで延びてきた背景があると思いますが、日本では少し環境が異なりませんか。

星野エアアジアが楽天と組んで参入するなど、LCCは日本でも普及してきましたが、もう一段の発展を遂げるためには空港が変わっていく必要があります。日本には98カ所の空港がありますが、地方空港はキャパシティが余っていて飛んできてくれる飛行機の数が少なく、しかも健全な経営をしている空港も少ないのです。その意味ではほとんどがセカンダリーエアポートであり、成田、羽田、福岡、新千歳など黙っていても人気がある空港と同じ経営スタイルであるのはどう考えてもおかしいと。世界には空港運営を専門とする会社がいくつもあります。英国のブリストル空港は、運営をオーストラリアの会社に任せてから就航便や利用者数が約4倍になったといいます。日本の空港も経営のプロに任せ、LCCを飛びやすくするための工夫をするべきです。

世界は「日本発」に期待している

萩倉最後に、ホテル業界に限らず、グローバル競争を戦う経営者たちに、メッセージをお願いします。

星野私がコーネル大学の大学院でホテル経営を学んでいたとき、日本に対する期待が想像以上に大きいことを肌で感じました。日本製品の質が高いことは製造業で知られていましたが、それと同様にサービス業においても、上質で、トラディショナルで、ミステリアスであると、世界は日本に期待を寄せてくれているのです。私が旅館メソッドを強調する理由もそこにあります。

1980年代から1990年代にかけてわれわれの業界が海外進出に失敗したのは、世界が日本に期待することとずれてしまったことが原因です。これからグローバル競争で戦い、海外の投資家、海外のお客さまの期待に応えていくためには、日本企業は、世界から期待される「日本らしさ」に立脚した経営をすることが重要だと思います。

(photo: Hideji Umetani)

【企業情報】
星野リゾート
1914年に星野温泉旅館を開業、51年に星野温泉と改組し、95年に株式会社星野リゾートに社名変更。本社:長野県北佐久郡軽井沢町。従業員数:1889人(2014年6月末現在)。国内では「星のや」ブランドのほか、温泉旅館ブランド「界」、リゾートホテルの「リゾナーレ」の3ブランドを中心に、全国で32カ所の施設を展開。2015年に「星のや バリ」を開業予定。