JBIC(国際協力銀行)にてプロジェクトファイナンス等の国際投融資や、経営企画部門におけるカントリーリスク分析、アジア債券市場育成構想(ABMI)等の政策案件に従事。米国系戦略ファームにて多数の海外拠点(欧州、アジア、中南米等)でのチームリードを経て現職。国際マクロ経済・金融知見を軸に、メガトレンド分析、中期経営計画策定、新興国参入戦略、M&A等の業界横断型でのプロジェクトに多数従事。「『遠くて近い』南米ビジネス必勝術」(日経ビジネスオンライン)等への寄稿、神戸大学大学院トップマネジメント講座(日本のソフトコンテンツのグローバル推進)等の講演多数。
「インテリジェンス」がスキルとして求められる時代
「中国の発展は本物か。いつまで続くのか」。15年ほど前、真剣に議論されたテーマだ。私は、JBIC(国際協力銀行)の北東アジア担当官として、中国を中心とする地域の政治・経済動向の分析にあたっていた。
当時の中国は1988年の天安門事件を経て、約10年。将来どのような発展をしていくのか、まったく不透明で、何が起ころうとしているのか、判断がしづらかった。
世界がその動向を注視していたが、文化大革命後の長い停滞が再び始まるとの見方もあった。その後20年続く、中国の大成長を予期した者は少なかった。「可能性」よりも「リスク」のほうが議論されていた。政府および商社、民間企業の関係者と日々議論を交わし、シナリオを描いていた。
まさにそんな時代、上司や先輩に頻繁に言われたのは「インテリジェンスを駆使しろ」という言葉だった。「インテリジェンス?」。当時は検索するすべもなく、聞いたことのない言葉だった。辞書を引くと「諜報活動等」とある。何だかスパイ工作のようで、自分には縁遠い世界だと思っていた。
そこで「辞書には、インテリジェンスとは『諜報』と書いてありますが、経済外交や融資業務にどう関係するのですか」と先輩・上司に聞いた。「諜報機関や情報機関も映画のようなスパイ活動をしているのではない。“インテリジェンス”といっても特別なことではない」との答え。私が予想しない言葉だった。ちなみに、世界の諜報機関の情報入手は90%以上が公開情報からだといわれる。情報入手のためのスパイの暗躍は映画やテレビ、小説の世界の話なのだろう。
「ではいったい何から始めればよいのですか」と尋ねた。「世界のクオリティペーパーを社会面から隅々まで読み込め。できる限り政府機関の統計や白書を主とする“一次情報”にあたれ。それらを日々比較検討せよ。常に歴史的文脈に照らして考えるように」ということだった。「中国でのビジネスでは人脈がすべて」とか「極秘情報ルートへのアクセスが肝心」等の話を日頃耳にしていたため、私には驚きだった。しかし駆け出しの頃聞いたこの言葉は、今でも役に立つ「インテリジェンスの発想」そのものだった。
それからというもの、毎朝早く出社し、世界の新聞・雑誌を多いときには15紙以上読んだ。関連しそうな記事を切り抜き、自分なりのコメントをつけ、先輩・上司への報告を続けた。部署が変わり、読む新聞やメディアが変わっても、欧米のクオリティペーパーに目を通し記事内容を比較検討することが日課になった。
外資系コンサルティング会社に勤務することになり、メガトレンド分析や新興国参入戦略等にも多々従事した。いわゆる戦略系コンサルティングでは必須のスキルである「論理的思考」や「仮説思考」が鍛えられた。
世界が不確実性を高めていくなか、クライアントからも、それぞれの事業にとらわれず、世界で起こっている事象や、その背景理解への問い合わせそのものが増えてきた。経営コンサルティングの現場では、アジェンダが複雑化し、業界を横断するようなプロジェクトも、一般的になりつつある。これに加えて、世界のトレンドと目の前で取り組まれている事業との意味付けへの議論が、なされるようになってきた。
こうした課題に対し、大きく役に立ってきたのは、20代で徹底的に叩き込まれた「インテリジェンス視点」。インテリジェンスには「情報収集」「情報分析」「情報活用」といったプロセスがある。いずれのプロセスにおいても、その本質に求められるのは「情報を解釈する力」だ。対象となる業界が変わっても、そのスタンスは普遍的だろう。ビジネスにおいても、インテリジェンス力は必須のスキルだと考えるようになった。
ビジネスの世界でなぜインテリジェンス力が必要なのか
「従来型の競争戦略の前提が変化しているのかもしれない。世界の政治・経済、地政学的な不確実性が経営にも影響している。人ごとではない」との声が、経営コンサルティングの現場で聞かれるようになった。
職業柄、マクロの市場予測やシナリオプランニング手法を目にすることは多いが、これらの分野はもっぱらエコノミストやコンサルタントといった人々によって語られてきた。いわゆる専門家といわれる人々が扱う分野と考えられてきたように思う。ところが経営の現場、それも経営者だけではなく事業部のミドルクラスからも、世界動向に関して、数多くの質問が寄せられるようになってきた。
書店にも2025年や2050年の予測をした本が並ぶ。メガトレンドやシナリオプランニングは、今日では何も専門家だけのものではなく、ビジネスパーソン一般の関心事となっているといえる。
しかし、メガトレンドやシナリオプランニングと聞くと、どうしても「難しそうだ」とか「特別な経験や才能が必要なのではないか」といった声があるのも事実だ。
ところがクライアントに話を聞いてみると、「国際経済の流れと、今のビジネスをどう結びつけたらよいのか」という情報解釈論の質問が大半だった。「多面的な視点を持ち、文脈をつなげ、理解し、応用するにはどうしたらよいのか」ということだった。突き詰めれば「情報そのものを解釈する力をどう身につけるか教えてほしい」ということであり、シナリオを描くとか、大それた話ではなかった。
「では、今はどうしているのですか」とさらに聞くと「“百聞は一見に如かず”で、結局のところ現場に行くしかない」との話に落ち着いてしまうケースが大半だ。しかし本当にそうなのか。「一見」が判断を曇らせることもある。第一、見なければ判断できない、では身がもたない。
現場に行って問題が解決するわけでもない。不確実性の世の中だから情報は玉石混淆。どこから手をつけたらよいのかわからなくなってしまうのだ。他方で、経営企画部から上がってくるものはPEST分析(政治、経済、社会、技術に分類して世の中で起こっている事象を整理する手法)と称して、数字やら記号が羅列されているだけのケースがほとんどだ。それらを文脈や根底潮流にさかのぼって検証しているケースは本当に少ない。
調査と称し、インターネットでひたすら情報を検索するビジネスパーソンも少なからずいると聞く。「とりあえず現場に行く」「とりあえず調べる」で本当によいのか。情報入手自体は昔に比べて格段に容易になったのだから、それだけでは付加価値はほとんどないといってよいだろう。
ビッグデータの活用が喧伝されることもある。確かにデータを大量に集めることによって見えてくるものもあるが、より重要なのは「どの角度で情報を洞察するか」といった分析の着眼点だと考える。
世界が相互依存を深めると同時に、不確実性を高めていることは事実である。また、地政学リスクは紛争地域だけでなく、先進国においても顕在化し、ビジネスにも影響を与えるようになっている。経営戦略を立案する際には、前提が定まっていることが重要だ。情勢判断がきちんと揃ってこそ戦略は機能する。孫子の兵法でも、「戦う場合にはどう戦うかよりも、事前の情勢の見極め、準備の重要性。戦うことになってもどこで戦うのか、戦地を見極めることの大切さ」を説いている。「情勢を見極める力」に加え、相手がどう考えているか、「異なるレンズで情勢を見る力」もますます求められる。ビジネスにおいてこそ、インテリジェンス力が必要不可欠なのだ。インテリジェンスのプロセスには「情報収集」や「情報活用」もあるが、ここでは「情報分析」の視点とは何か、どう磨いていくのかに焦点をあわせたい。
インテリジェンス力で洞察力を磨き、構想力を身につける
〈インテリジェンス力そのものが競争力の源泉〉
英国は、19 世紀から 20 世紀初頭にかけ、大英帝国として世界に君臨、「パックス・ブリタニカ」と呼ばれた。金融市場シティはいまだに大きな影響力を持っている。その源泉がどこにあるか、さまざまな見方があるだろうが、その1つは「情報戦を制する力、すなわちインテリジェンスを駆使する力」だ。
金融業は情報産業だ。時間と地政学を絶えず頭に置き、インテリジェンスを駆使し、商機をつかむ(図表1)。ニューヨークとの時差はロンドンから見て5時間。シンガポール、香港は7~8時間。あわせても12~13時間差であり、東西両市場が開閉する時間を押さえることとなる。東京はここから1時間ずれるので、わずかだが、ロンドンから見たときには「極東」となってしまう。
このような立場にある国でビジネスをしているプレーヤーと、日本を中心にビジネスをするプレーヤーのモノの見方が違うのは当然だ。
〈洞察力を磨くことで、構想力も磨かれる〉
洞察力を高めるというのは、情報をどれだけ深く読むかということでもある。将来のシナリオを策定し、構想力を鍛える上でも、インテリジェンスは必須となる。日々変化する経営環境のインプットの質をいかに高めるかで経営判断も変わるからだ。筋の良いインプット、鋭い洞察力があってこそ、構想力も磨かれる。
作家・井上靖の作品に有名な『敦煌』がある。氏は資料をベースにして原稿を書き上げ、後年現地を訪れて、そこは自分が作品で描いたとおりだったと語っていたとの話がある(『歴史小説の周囲』講談社)。将来への投資やシナリオを策定するのであれば、「見ることができない」のだから、「情報解釈力」を基盤にした想像力や構想力こそが問われるだろう。
どのようにしてインテリジェンス力を身につければよいのか
ビジネスにおいて「情報」の重要性は誰もが認識している。しかし、情報の読み解き方の訓練は大学の講義プログラムにはないし、企業の研修プログラムにもないだろう。ましてやインテリジェンスという言葉が教えられることは皆無だろう。
情報には必ず得た人の主観、いわば「手垢」がついている。誰かから伝聞された情報には、必ず誰かの解釈が紛れ込んでいる。その手垢のついた解釈が入れば入るほど、事実とは異なる様相も多くなる。
「情報」に対してのセンシティビティや教育というのは、日本ではあまり受けない。ただし、これらの力量は訓練次第で相応に改善され、磨かれてくる。パブリックセクター・国際金融の最前線で活用していた情報への取り組み方、外資系戦略コンサルティング会社で扱ってきたアプローチには共通するものがある。その考え方については、多くの方にも適用可能な部分もあるのではないかと考える。
そのアプローチは、①「情報を比較する」、②「情報をさかのぼって収集する」、③「原典にあたる」の三原則が基本だ。これに、④「情報ソースのクセを読み取る」、⑤「歴史観(超長期)に照らして読み直す」、⑥「手書きでアウトプットする」ことが応用力を高める上で重要だ(図表2)。
①「情報を比較する」
有効な手法としてまずあげたいものは、同一ニュースをベースに、新聞の読み比べやテレビの見比べをすることだ。できれば、海外の新聞やテレビ等の国際ニュースと日本のメディアを比較するとよい。同一の事実であっても、報道する立場によって、いかにニュースの内容が大きく変わっているかがわかる。
同じニュースでも、報道する視点によって物事は変わってくる。たとえば、毎朝NHKのBS1では、ワールドニュースを報道している。BBC(英国)、ZDF(ドイツ)、F2(フランス)、RTR(ロシア)、ATV(香港)、バンデランテス(ブラジル)、NDTV(インド)等のニュースが10分刻みで放送される。よくよく見ていくと、同じ事件でも報道姿勢が異なっていることに気づく。この差分を探していくことが重要だ。そこから「Why?」と歴史的推移や相関関係をたどっていくのだ。この作業を地道に続けることで、「米国のABCと英国のBBCでもウクライナ情勢の報じ方には濃淡がある。ロシアの報道では、英米の報道とは間逆だが、報じられていない内容もあるし、冷静にも見える。ドイツの報道姿勢は比較的バランスを取っているように見えるが、経済上の配慮か? 誰にとっての機会と脅威になるのか? 資源価格への反応はどうか? 株価は? 通貨は?」といった複合的な問い、読みができるようになってくる。
さらに、日本の国際報道を読んでいると、海外で報じられたニュースを何日か遅れて翻訳しただけの内容に見えるケースもある。国際ニュースもどの国の視点で見るかによって、中身は異なってくる。外信部や国際部発のニュースだからといって鵜呑みにせず「どこから発信されたのか」「どのような意図を持って発信されたのか」、絶えず情報を検証するクセを身につけていくべきだろう。
②「情報をさかのぼって収集する」
これは、タイムトラベルをする手法だ。経営学者のピーター・ドラッカーは、鋭い洞察で未来を予見していった。彼は、現在起きている、また現にあることに、未来の萌芽があるとして「現在起こっている未来」という言葉で表現した。これを過去に当てはめてみれば、「今起こっていることは、過去にさかのぼってみれば因果がわかる」ことにほかならない。図書館には、新聞の縮刷版がある。日々の業務に多忙なビジネスパーソンは、手に取ってじっくり読むということもないだろう。
しかし、10年前や20年前の記事を読むと、当時学生だった頃の原体験とあわせ、世の中で何が起こっていたかに驚くことも多いだろう。特に、年末年始の新聞をさかのぼるとよい。来し方の1年間の総括と、向こう1年の予測が書かれているからだ。じっくり追ってみると、百パーセント当たっているものはまずない。予測だけでなく、総括でさえ間違っているケースもある。リーマンショックが起こる直前までは、空前の景気拡大が予想されていた。
日本のバブル崩壊についても、ある日突然崩壊したわけではないことにも気づく。「いずれ回復する」という淡い期待のなかで、1つひとつ、タガが外れていっていることに気づくことだろう。重要なのは、情報の真贋よりも、情報というものが一定の価値判断によって歪められる、ということを実感することだ。これによって、現在起こっている事象についても、健全な批判精神をもって読み解くことの重要性がわかるだろう。
③「原典にあたる」
駆け出しの20代で、経済外交に従事していた頃、口を酸っぱくして言われたことが、この「原典にあたる」ということだった。法律論が出てくれば、その議事録を数巡前までさかのぼり、法律の原文にあたる。経済統計が発表されたと新聞報道されれば、もとのデータまで書庫に向かって調べに行く。国際経済統計であればIMFのデータを調べに行く、といったことだ。
これは新聞を読む際だけでなく、日々の報告を受ける際、判断を下す際にも最も注意を払っていることだ。ある一定の思い込みを仮説と称して、二次情報である新聞記事で補強するという資料を目にすることがある。これは分析とはいわない。データや統計を見るクセをつけると、「本当にそうなのか」「何を根拠に言っているのか」といった適切な質問は分析に不可欠だ。何より、原典にあたっていれば、ブレも少なくなる。
「原典にあたる」という視点は、「変わらないものは何か、本質をいかに見極めるか」ということにも通じる。国際情勢や経営環境の激変が叫ばれ、メガトレンドもブームだ。重要なのは表層の変化に一喜一憂することではない。洞察力に富む分析は、事象の潮流・底流に触れている。毀誉褒貶の激しい政治や株価動向等は追わないものだ。人口動態など、一見地道であるが、確実に社会にインパクトを与えるような指標を見ていくことが近道となる。
④「情報ソースのクセを読み取る」
新聞を読むと、記者の署名入りの記事がある。一般記事は読み流してしまう場合が多いが、署名入り記事は情報ソースのクセを読む上でポイントになる。特徴のある記事を見つけた場合、ないしは自らが追っているテーマがある場合は、関連する記者の名前をメモしておくことだ。
NewsPicks等、ある情報に対して専門家等がコメントを集中していくアプリケーションもあるが、情報収集のプロであるジャーナリストのクセを読むことも重要だ。過去に書かれた記事を調べていくことで、記者の報道スタンスがわかってくるし、精度が検証できる。考え方のクセをつかむことで、情報の「質」の精度を上げる訓練をしていくのだ。
個人の場合であれば、つきあう上司や部下のクセや空気を読みながら、価値判断を行い、意思決定をするものだ。「文字情報」や「統計情報」についてもクセがついていると考えれば見方も変わってくるはずだ。
⑤「歴史観(超長期)に照らして読み直す」
「過去に盲目である者は、未来に対しても盲目である」とはドイツのワイツゼッカー元大統領の言葉であるが、過去の歴史を学ぶことは何も政治外交だけの話ではない。技術が進展しても、人間や社会を洞察していく上で、歴史から学ぶ視点は多い。
超長期で見る、というのは、リベラルアーツ力の強化といってもよい。大学時代に使った教科書や、場合によっては高校時代の歴史の教科書を手元に置き、検証していくことだ。理論的なバックグラウンドをあらためて確認するだけでなく、アナロジー(類似性)を検証する上での有効なツールになることが多い。
たとえば、山川出版社の世界史の教科書などを使ってみると、そこには、インテリジェンスの基礎となる情報がたくさん詰まっている。「Why?」に答える中身や、巻末の年表を見ると、地政学の連携や時系列でモノを見ることの意味がわかる。
⑥「手書きでアウトプットする」
最後に、アウトプットをしていくことの重要性だ。これは、綺麗な論文にまとめなくてもよい。手書きのメモを付箋紙に書き出し、ノートに貼りつけていくだけでもよい。たまってきたら、各事象の因果関係を結びつけていくとよい。そうすると情報を構造的に読むクセが身についてくる。できれば、新聞をはじめ何かの情報ソースに引っかかった際は、感想やコメントをつけておくとよい。それが自分自身の見解のベースになる。メモを取ることの大事さ、それは新聞記者など、「書くこと」を業としている人だけの話ではない。
組織におけるインテリジェンス:情報入手とコストについて
インターネットをはじめとし、ニュースは即時的かつほぼタダで入手できるようになった。だからこそ、情報の「質」そのものが重要になってくる。質を上げるためには、情報への投資を怠ってはいけない。
よく言われる話だが、他人からもらった本はあまり読まないが、身銭を切った本には目を通すものだ。それはビジネスパーソンや組織レベルでも同様だ。身銭も切らず、努力もせずに、タダで手にした、ありふれた情報だけで勝負しようとしたり、「何か持って行けるネタはないか」では駄目だ。継続的に投資をしていく必要がある。
情報入手にはお金をかけることだ。また企業サイドも情報はタダみたいに思っているとしたら大間違い。情報は製品のように形として目には見えないが、製品と同様に、否、時には製品以上に有価値的存在でもある。社運、国運、死命を決する場合もある。ゆえに情報入手にはそれ相当のコストをかけるべきだ。その意識を持つことである。

毎朝手にする新聞。日本では料金が一部150円前後でほぼ固定されている。他方、英国の『フィナンシャル・タイムズ』。こちらは一部600円と約4倍だ。中身を見ると、速報よりも解説記事が多いことに気づく。世界のクオリティペーパーとして、多くのビジネスパーソンが文庫本並みのお金を払って、この新聞を買う。つまり情報入手にお金をかけているのだ。
経済新聞もろくろく読まないで、「耳情報」こそすべてとばかりに、ただ人と会うことのみをもっぱら説く経営者やコンサルタントもいる。そのような人たちは時間とともに退場していった。今後もそうだろう。
もちろん、人と会うことは大事であるが、それだけでは限界がある。深みのある情報はつかめない。事前にどれだけインプットできるかが、実際に「会った瞬間」を価値あるものにできる。人と会うときはその情報の精度や鮮度を検証するという姿勢が必要だ。そもそも、こちら側に発信すべき情報がなく、また情報を引き出す力もなく、ただ話を聞かせてくださいという受け身の姿勢だけでは、先方も真に価値ある情報を伝えてはくれない。
一方、説得力がある、話の中身が濃い、といわれる諸子や名経営者といわれる人のかばんには常に本が数冊入っているものだ。「本を読まなくなったら使いモノにならなくなる」「若いときは、給料の1割ぐらいは本代に充てよ」とは、よく聞かされた話だ。
個人におけるインテリジェンスは長期目線で投資すべき話だ。これは組織においても同様だ。情報代をいくら払ったからKPI(投資効果)を短期的に測定しようとする動きも散見される。しかしながら、歴史を振り返れば、情報戦に徹底して長期投資をした組織が勝ち抜いている。米国の情報技術ももとは徹底した軍事/諜報機関やベル研究所等の投資が背景となっている。シナリオプランニングを開発したシェルのケースも有名だ。日本企業が世界のなかで勝ち残れるかどうかは、個人や組織におけるインテリジェンス力強化にかかっているといっても過言ではない。
ビジネスの現場でインテリジェンス力をどう活かすか
〈ビジネスの場でのインテリジェンス〉
経営コンサルティングの仕事は、知的情報産業の代表例だ。外資系戦略ファームを中心に、手法が多く展開されるようになって久しい。ところが、一見、特殊なように見える手法も、シンプルにいえば情報の扱い方、加工の仕方を体系化したものにすぎない。
新興国参入戦略といっても、その国や地域のことを押さえていなければならないのは大前提だ。
日本においても例外ではない。どの産業、どのアジェンダに取り組む上でも、鳥瞰的な視点や、あらゆることに対する因果関係を探ろうとする視点は不可欠となっている。
コストオペレーション施策をいくら打っても、為替が変動すれば前提は変わる。サプライチェーンのあり方も同様だ。マクロ経済の基本的な理解などのインプットがどうしても必要となってくる。「前提が変わったのでしかたがない」は実業から離れた場面では許されても、企業経営の現場では許されない。
前提そのものが変化するのであれば、それをできる限り正確に把握し、シナリオを描き、手を打っていく、広い意味でのインテリジェンス力≒情報解釈力が必要となってくる。
ただし、インテリジェンス力をビジネスの現場で身につけ、活かすには、それなりに時間がかかる。私自身も情報収集・分析にかける時間をカウントしてみると、少なくとも1日2~3時間は費やしている。世界を見渡すと、投資家、政府関係者、ジャーナリスト、経営者等で深い見識や鋭い視点を持つ方は、コツコツと新聞の切り抜きをはじめ、情報解釈の知的トレーニングを続けている。ただし、これらを忠実に継続する人は本当に少ない。アプローチ自体は、特別な方法ではなく「目の前にある」ものだ。長い積み重ねのトレーニングはビジネスの現場でも「ブレない軸」を形作っていく。それが不確実性の世界を生き抜く上での大きな力につながっていくのだ。
(photo: Hideji Umetani)
地政学とビジネス:新興市場の未来を読む

