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「不確実性の世界」を生き抜く上での、
ビジネス・インテリジェンスの重要性 邉見 伸弘(デロイト トーマツ コンサルティング
国際ビジネス インテリジェンス リーダー)

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インテリジェンス力で洞察力を磨き、構想力を身につける

〈インテリジェンス力そのものが競争力の源泉〉

英国は、19 世紀から 20 世紀初頭にかけ、大英帝国として世界に君臨、「パックス・ブリタニカ」と呼ばれた。金融市場シティはいまだに大きな影響力を持っている。その源泉がどこにあるか、さまざまな見方があるだろうが、その1つは「情報戦を制する力、すなわちインテリジェンスを駆使する力」だ。

金融業は情報産業だ。時間と地政学を絶えず頭に置き、インテリジェンスを駆使し、商機をつかむ(図表1)。ニューヨークとの時差はロンドンから見て5時間。シンガポール、香港は7~8時間。あわせても12~13時間差であり、東西両市場が開閉する時間を押さえることとなる。東京はここから1時間ずれるので、わずかだが、ロンドンから見たときには「極東」となってしまう。

このような立場にある国でビジネスをしているプレーヤーと、日本を中心にビジネスをするプレーヤーのモノの見方が違うのは当然だ。

〈洞察力を磨くことで、構想力も磨かれる〉

洞察力を高めるというのは、情報をどれだけ深く読むかということでもある。将来のシナリオを策定し、構想力を鍛える上でも、インテリジェンスは必須となる。日々変化する経営環境のインプットの質をいかに高めるかで経営判断も変わるからだ。筋の良いインプット、鋭い洞察力があってこそ、構想力も磨かれる。

作家・井上靖の作品に有名な『敦煌』がある。氏は資料をベースにして原稿を書き上げ、後年現地を訪れて、そこは自分が作品で描いたとおりだったと語っていたとの話がある(『歴史小説の周囲』講談社)。将来への投資やシナリオを策定するのであれば、「見ることができない」のだから、「情報解釈力」を基盤にした想像力や構想力こそが問われるだろう。

どのようにしてインテリジェンス力を身につければよいのか

ビジネスにおいて「情報」の重要性は誰もが認識している。しかし、情報の読み解き方の訓練は大学の講義プログラムにはないし、企業の研修プログラムにもないだろう。ましてやインテリジェンスという言葉が教えられることは皆無だろう。

情報には必ず得た人の主観、いわば「手垢」がついている。誰かから伝聞された情報には、必ず誰かの解釈が紛れ込んでいる。その手垢のついた解釈が入れば入るほど、事実とは異なる様相も多くなる。

「情報」に対してのセンシティビティや教育というのは、日本ではあまり受けない。ただし、これらの力量は訓練次第で相応に改善され、磨かれてくる。パブリックセクター・国際金融の最前線で活用していた情報への取り組み方、外資系戦略コンサルティング会社で扱ってきたアプローチには共通するものがある。その考え方については、多くの方にも適用可能な部分もあるのではないかと考える。

そのアプローチは、①「情報を比較する」、②「情報をさかのぼって収集する」、③「原典にあたる」の三原則が基本だ。これに、④「情報ソースのクセを読み取る」、⑤「歴史観(超長期)に照らして読み直す」、⑥「手書きでアウトプットする」ことが応用力を高める上で重要だ(図表2)。

①「情報を比較する」

有効な手法としてまずあげたいものは、同一ニュースをベースに、新聞の読み比べやテレビの見比べをすることだ。できれば、海外の新聞やテレビ等の国際ニュースと日本のメディアを比較するとよい。同一の事実であっても、報道する立場によって、いかにニュースの内容が大きく変わっているかがわかる。

同じニュースでも、報道する視点によって物事は変わってくる。たとえば、毎朝NHKのBS1では、ワールドニュースを報道している。BBC(英国)、ZDF(ドイツ)、F2(フランス)、RTR(ロシア)、ATV(香港)、バンデランテス(ブラジル)、NDTV(インド)等のニュースが10分刻みで放送される。よくよく見ていくと、同じ事件でも報道姿勢が異なっていることに気づく。この差分を探していくことが重要だ。そこから「Why?」と歴史的推移や相関関係をたどっていくのだ。この作業を地道に続けることで、「米国のABCと英国のBBCでもウクライナ情勢の報じ方には濃淡がある。ロシアの報道では、英米の報道とは間逆だが、報じられていない内容もあるし、冷静にも見える。ドイツの報道姿勢は比較的バランスを取っているように見えるが、経済上の配慮か? 誰にとっての機会と脅威になるのか? 資源価格への反応はどうか? 株価は? 通貨は?」といった複合的な問い、読みができるようになってくる。

さらに、日本の国際報道を読んでいると、海外で報じられたニュースを何日か遅れて翻訳しただけの内容に見えるケースもある。国際ニュースもどの国の視点で見るかによって、中身は異なってくる。外信部や国際部発のニュースだからといって鵜呑みにせず「どこから発信されたのか」「どのような意図を持って発信されたのか」、絶えず情報を検証するクセを身につけていくべきだろう。

②「情報をさかのぼって収集する」

これは、タイムトラベルをする手法だ。経営学者のピーター・ドラッカーは、鋭い洞察で未来を予見していった。彼は、現在起きている、また現にあることに、未来の萌芽があるとして「現在起こっている未来」という言葉で表現した。これを過去に当てはめてみれば、「今起こっていることは、過去にさかのぼってみれば因果がわかる」ことにほかならない。図書館には、新聞の縮刷版がある。日々の業務に多忙なビジネスパーソンは、手に取ってじっくり読むということもないだろう。

しかし、10年前や20年前の記事を読むと、当時学生だった頃の原体験とあわせ、世の中で何が起こっていたかに驚くことも多いだろう。特に、年末年始の新聞をさかのぼるとよい。来し方の1年間の総括と、向こう1年の予測が書かれているからだ。じっくり追ってみると、百パーセント当たっているものはまずない。予測だけでなく、総括でさえ間違っているケースもある。リーマンショックが起こる直前までは、空前の景気拡大が予想されていた。

日本のバブル崩壊についても、ある日突然崩壊したわけではないことにも気づく。「いずれ回復する」という淡い期待のなかで、1つひとつ、タガが外れていっていることに気づくことだろう。重要なのは、情報の真贋よりも、情報というものが一定の価値判断によって歪められる、ということを実感することだ。これによって、現在起こっている事象についても、健全な批判精神をもって読み解くことの重要性がわかるだろう。

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