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改憲は多角的視野で 東京外国語大学教授 伊勢崎賢治

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自民党は今年3月、憲法に自衛隊の存在を明記することを主眼とする改憲案を党大会で採択した。9条の戦力不保持の条項は残しつつ、自衛隊保持を明記する方針だ。伊勢崎賢治・東京外国語大学教授に聞いた。

いせざき・けんじ●1957年生まれ。専門は紛争予防や平和構築。早大大学院修士課程修了。国連東チモール暫定行政機構上級民政官や、国連シエラレオネ派遣団の武装解除部長を務めた。(撮影:尾形文繁)

──改憲案をめぐり与野党に隔たりがあります。

9条をそのまま維持し自衛隊を明記する条文の最終案はまだわからないが、英訳すると大混乱になる。9条2項で保持を禁ずる「戦力」の公式英訳は「forces」 で、自衛隊は「self-defense forces」。つまり、保持しないはずのforces(戦力)と保持するforces(自衛隊)が混在することになる。

自民党案に対して、野党は改憲に反対し、「平和憲法を守れ」と伝統的な主張を繰り返している。与野党とも旧来の議論の枠内で空中戦を続けている。必要なのは実態に即した議論だがそれがない。

──実態に即したとは? 

すでに国連憲章では戦争は違法とされている。PKO(国連平和維持活動)のような国連安全保障理事会が承認する集団安全保障は例外として、各国に許されているのは「自衛」だ。だから自衛隊は普通の「戦力」に当たる。ところが日本は、憲法9条によって交戦権がないし、自衛隊は戦力ではないという解釈を唱えてきた。

その戦力が交戦中に犯す違反行為を定めたのが国際人道法だ。国際社会が合意した違反行為を一義的に裁くのは各主権国家の責務だ。しかし日本政府はこのための法整備をしないまま、世界5位の通常兵力を保有し、PKOで海外派兵をしてきた。日本の刑法は海外での一般過失でさえ管轄外になるので、自衛隊員が海外で自衛のためやむをえず殺傷をした場合には故意犯として責任を負う事態になってしまう。

海上自衛隊は、海賊対策のためアフリカのジブチに恒久的な基地を築き、ジブチ政府と地位協定を締結しているが、事件が起きたら裁く法がないのにジブチ政府に裁判権を放棄させている。相手国への主権侵害であり、国際社会ではありえない「外交詐欺」だ。これは旧民主党政権下でも続いてきた。だから現在の野党の改憲反対論に何の説得力もない。

──ではどうするのがよいと?

まず自らの主権を考えられる国家になるべきだ。米国の地位協定の中で、日米地位協定は唯一、主権が不在だ。米軍は、日本の首都圏の広大な空域(横田空域)を管制下に置いているが、このような同盟国はほかにない。駐留米軍の出撃に自国の国防の観点からノーと言えないのも日本だけだ。

現在、米国は同盟国との法的な対等性を志向している。「米軍がすることは相手国もできる」という同盟関係だ。こうした動きに日本だけが取り残されている。障害は憲法9条だ。ジブチのケースを米国に置き換えてみれば問題の所在がはっきりする。「法の空白」のある日本が交渉できる余地はない。だから改憲問題は9条を政治的なシンボルにするのではなく、多角的に見る必要がある。

(聞き手・ジャーナリスト:内田通夫)

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