アジア展開で成功する企業と
失敗する企業は何が違うのか
サプライチェーンが一体となって海外に進出する例も
「バブル期には、大手都市銀行をはじめ、多くの金融機関が海外に進出したものの、結果として撤退したところがほとんどでした。最近は、地方銀行も含め、海外に再び出ていこうとする金融機関が増えています。その背景には取引先の一般事業会社の積極的な海外進出が挙げられます」と、有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ パートナーの山﨑健介氏は説明する。
山﨑氏は、同法人におけるアジア展開のサポートグループにおいて、主として金融機関の進出を支援してきた経験を持つ。同氏によれば、たとえば大手メーカーが海外に進出する際、従来は、1次請けや2次請けまでであったが、最近では3次請けや4次請けの業者なども含め、いわゆるサプライチェーンが一体となって海外に出て行くケースが珍しくない、と言う。そうなると、これらの事業会社に資金を供給している金融機関も国内にいてはビジネス機会を失うことになる。「それでも一昔前なら、親会社などに融資して、そこから子会社などに融通するという方法もありましたが、最近では現地の銀行や既進出の邦銀もサービス拡充に力を入れており、黙っているとパイを取られてしまいます。また、人口減少等を起因として国内市場の飽和が叫ばれつつある昨今、自行が成長するための戦略として海外展開は有力な一手になります」。
金融機関自体が現地に出て行かざるを得なくなっているわけだ。逆に、現地に進出した日系の金融機関が非日系企業を取り込むチャンスはあるのだろうか。「最終的に成長しようと考えるならば、非日系の企業への資金貸出も当然やっていかなければなりませんが、なかなか一朝一夕にできることではありません。最初はやはり日系企業、あるいは海外の企業でもすでに日本に出てきてリレーションがある企業などが対象になるでしょう。また、融資だけで収益を上げるのは容易ではありません。キャッシュ・バンキングやトランザクション・バンキングなども含めて、ビジネスの幅を広げていくというのが基本的な戦略になるでしょう」(山﨑氏)。
最新の制度だけでなく、
その運用などについての情報なども重要
2015年のASEAN経済共同体の創設を控え、アジアのポテンシャルが高まっている。アジア進出を行う場合に注意すべき点はどのようなことなのだろうか。
「ASEANの中では、制度もある程度同じようにしようという取り組みが進みつつあり、法令や細則などが新たに制定されています。ただし、依然として、国ごとに各種制度が未整備なところが少なくありません」と山﨑氏は紹介する。外資系企業による資本規制などについても、国によって異なる。中国では、省によって対応が異なることも珍しくない。
「さらに難しいのは、これらの制度が、刻々と変化することです。1年前と制度がまったく変わってしまうといったこともあります。最新の情報を常にキャッチアップできる仕組みづくりが必要です。ただし、実際に新しい法律などが施行されたといった情報は、金融機関などで入手できたとしても、それはどこがポイントで、どのように運用されるのかといったところまでは、現地で業務をやっていないとなかなか気付かないところもあります」。
これらを企業が独自に行うことは容易ではない。必要に応じて、現地の事情に精通したコンサルタントなどを活用するのも一つの方法だろう。現地に日本人スタッフを擁しているところならさらに頼りになる。