世界に先駆けて次世代モビリティ社会を実現する 佐瀬 真人 デロイト トーマツ コンサルティング パートナー

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地域主体で次世代モビリティ社会をつくる

次に、そうした次世代モビリティ社会を日本において実現する上での課題を見ていこう。まずマイクロカーの普及についてである。現状では、価格帯が二輪車と競合するため、消費者にとっての経済合理性に欠ける。また安全面に不安を残すマイクロカーが安心して走行できるよう、法整備を含めたインフラの拡大が求められる。また「街乗り中心の使い方」という、これまでの四輪車にはない新しい用途について消費者に訴求する必要もあるだろう。

EVは、CO2削減や脱・石油など明確な社会的要請があるにせよ、現状では高価格がネックとなり、やはり消費者にとっての経済合理性に不安を残す。

こうして、カーシェアリングのように1台の車両を複数の消費者が利用することで、消費者の経済合理性を実現させるという道が見えてくる。「資源を有効活用する社会」へと向かうことから、サステナビリティ(持続可能性)の面からも期待値は高い。しかし現状では、国内のカーシェアリングサービスは稼働率が低く、ビジネスとしての採算性を確保するめどが立っていない。つまり、事業者にとっての経済合理性やサステナビリティに難があるということだ。

いずれにせよ、消費者の意識改革に頼って次世代モビリティ社会の実現を図ることは難しい。われわれはそこで「地域」に注目する。地域における多彩なステークホルダーが連携し、地域固有の交通課題を解決するなかで経済合理性、社会的意義、サステナビリティのすべてを満たす次世代モビリティのあり方を模索するのだ。

というのも、都市部と地方部では、抱えている交通課題が異なるのである。都市部での課題は、列車や車両などが混雑すること。一方、地方部では駅やバス停留所までの距離が遠いこと、乗り換え・乗り継ぎがスムーズでないことなどが挙げられる。両者に共通している課題は「運賃が高い」ことぐらいで、都市部と地方部で同じソリューションを打ち出すのは、そもそも無理があるのだ。したがって、中央省庁からのトップダウンによって次世代モビリティ社会のモデルケースを導入していくことは難しい。地域ごとのニーズを踏まえ、地域に根差したモビリティ社会を、草の根的につくっていく。そのような地域を増やすことで、やがて日本全国を覆う。日本における次世代モビリティ社会は、そのようにして構築されるべきである。

その過程においては、自治体、住民、事業者といったステークホルダーの意見をしっかりと聞き出し、めざすべき方向性について合意形成することがカギとなる。また資金、人材の調達を円滑に進めるために、コーポレートベンチャリングやオープンイノベーションなどを活用する。その上で持続的に、かつあらゆるステークホルダーが満足する事業モデルを構築していくことになるだろう。

そこで求められるのは、「地域モビリティ・プロデューサー」とでもいうべき新たな存在だ(図表3)。それは、多彩なニーズを吸い上げるカウンセラー的な役割、多彩なステークホルダーを巻き込むアグリゲーター的な役割、持続可能な事業を成立させるビジネスプランナー的な役割を担うことができる人材だ。そうしたプロデューサーがハブとしての役割を担い、政府、自治体、地元事業者、交通事業者、メーカーなどを巻き込んだコンソーシアムもしくは協議会のようなビジネスプラットフォームを構築し、事業を推進していく。

 たとえば、政府や自治体は補助金を出し、その見返りとして地域の交通課題の解決を見る。また地域住民は、快適・低価格の交通手段を手に入れる。車両メーカーは車両量産に向けた実証実験やPR効果拡大を、またカーシェアリング事業者は、事業収益獲得を図る。IT事業者も、システムの提供などで利益を得ていく。地元の事業者は、たとえば駐車場をカーシェアリング事業に提供することで、集客増を見込めるだろう。「地域モビリティ・プロデューサー」は、こうした一連の事業スキームの取りまとめ役として機能するのである。

「国民、産業界、行政」の「三方良し」の施策を考える

繰り返すが、日本における公共交通の運用品質は、世界一のレベルにある。その安全性、正確性、その背後にある「おもてなしの心」を含め、どれを取っても比類がない。それは、世界に先駆けて次世代モビリティ社会を実現する上での、またとない環境が整っているということだ。これまでは自動車そのものが輸出品であった。しかし今後は、自動車を取り巻くインフラであり、ソリューションを各グローバル都市へと輸出する方向へ、シフトチェンジしていくべきなのである。それが、交通先進国である日本の役割である。それにあわせて、これまで日本の輸出を支えてきた自動車メーカーのビジネスモデルも、大きく転換していくことになるだろう。 

ただし、視線はまず国内に向けるべきだということを忘れてはならない。日本国内の交通課題を解決することでこそ、世界に誇れる交通ソリューションが完成を見るのである。そのためには国民、産業界、行政のすべてのニーズを満たした「三方良し」の施策を模索する必要がある。

国民にとって、モビリティはあらゆる社会生活の基盤だ。その進歩が、より良い社会の実現につながることは疑いのないところである。次世代モビリティ社会の姿を描き、またそれが国民に大きなメリットをもたらすことをうたい、共感を得ていくことがまずは求められる。

産業界にとっては、これは自動車産業の枠を超えた新たなビジネスチャンスとなる。マイクロEVによるカーシェアリング事業を立ち上げるにも、そこには自動車メーカーのほか、電気メーカー、充電事業者、ITメーカーなどさまざまなステークホルダーがかかわってくる。異業種間の連携によって高品質なサービスを実現することで、市場の活性化が図られる。こうしたメリットが周知されれば、多くの事業者の参入が進むだろう。

行政にとっては、交通課題を解決することで、社会コストが最適化されるというのが最大のメリットになるだろう。加えて、今後グローバル都市が交通成熟期を迎え、数々の交通課題に直面していくなかで、日本国内で磨き上げられた交通ソリューションを輸出し、日本経済の新たな活力としてほしい。

こうして、国民、産業界、行政の3者が納得する、次世代モビリティ社会の姿を打ち出すこと。それが、世界に通用する新たな輸出産業が誕生する、足掛かりとなるのである。