世界に先駆けて次世代モビリティ社会を実現する 佐瀬 真人 デロイト トーマツ コンサルティング パートナー
期待される3つの交通ソリューション
「次世代モビリティソリューション」を進めるグローバル都市のなかで、交通課題先進都市である東京が1つのモデルケースになる。この点についてもう少しくわしく見ていこう。
日本の交通発展は今「交通成熟期」にある。交通量を確保するために公共交通のインフラ整備を進める時期が「交通黎明期」、そして交通量が拡大した結果、インフラの非合理面や、渋滞、事故といった課題がクローズアップされる時期を「交通成長期」と見る。各国のグローバル都市は今、この「交通成長期」にあるといえるだろう(図表2)。
その先に、「交通成熟期」がやってくる。日本においては、渋滞・混雑、安全、といった従来の課題については改善が進んだが、新たな課題として、高齢化に対応した移動権の確保、バリアフリー政策、CO2排出量を減らすなど環境に配慮した交通手段への転換(図表2)、都市鉄道のさらなる利便性の向上などが浮上している。日本は各グローバル都市に先駆けて、こうした交通課題に対するソリューションを模索しているというわけだ。
その交通ソリューションとして有望視されているのが、次のような「次世代モビリティソリューション」だ。
(1)超小型モビリティ
1~2人乗り、最高速度が時速60キロメートルと、軽自動車よりもさらに小さく、しかし街乗りに適した「マイクロカー」に代表される超小型モビリティは、徒歩や自転車、電動アシスト自転車などの代替策として、特に高齢者の移動権を確保する上で有効だと考えられる。高齢者のみならず学生、主婦など運転に不慣れな方々でも簡単に操作でき、移動の自由を確保できるとともに、用途・便益に適した低廉な価格であるため旧来のマイカーに比べ保有しやすく、利便性とコスト負担の両立が可能と期待される。
(2)カーシェアリング
登録した会員が自動車を共同利用するサービスがカーシェアリングだ。都心部では自動車を所有していたところで稼働率は低く、現実には、カーシェアリングによって「必要なときだけ車を使えたら十分」という状況にある。またカーシェアリングによって、マイカーに比べ無駄な走行が減ることによるCO2排出量の削減や、資源有効活用などの社会的便益も得られるとの期待がある。
(3)EV/プラグインハイブリッド
運輸部門のCO2削減に最も寄与するのは車両の燃費改善や電動化である。EV(電気自動車)であればガソリン車に比べ1キロメートル走行当たりの平均CO2排出量は約4分の1(発電時などのCO2排出量も加味したWell to Wheelの計算方式)。排気ガスによる環境問題の深刻化を食い止めることができる。
これらのソリューションの現状については、後ほどくわしく見ていく。
日本の交通ソリューションは世界でも受け入れられる
私は、日本が今模索しているこうした交通ソリューションが、日本の新たな内需、さらには輸出産業に成長すると期待している。今後、日本が国内の交通課題に対して適切なソリューションを打ち出すこと。それはすなわち、各国のグローバル都市が将来的に直面するであろう交通課題を解決できるソリューションを、いち早く手に入れることになるからだ。
超小型モビリティ、カーシェアリングといった次世代モビリティそのものの市場規模は、旧来の自動車産業に比べて、大きなものではないのは事実だ。現状を見る限り、これまで日本の産業を牽引してきた自動車産業を代替できるとは言えない。しかし「次世代モビリティを核とした交通ソリューション」として捉えるならば、これは大きなポテンシャルを秘めていると断言できる。
たとえば、すでに欧州では大手自動車メーカーのダイムラーやBMWなどが、自動車製造に留まらない新たなビジネスとしてカーシェアリングサービスに参入している。日本の各自動車メーカーも、従来の「ものづくり」を超えた新たなビジネスを国内で確立できれば、そのビジネスモデルごと各国に輸出することができるだろう。
また次世代モビリティを開発するなかで、新たな技術応用余地としての事業機会を発見するという事例もある。たとえば、FC車(燃料電池自動車)の主電源は水素であるが、その水素からエネルギーを取り出す技術は、自動車用エンジンのみならず、家庭用・事業所用の発電機にも応用が利く。次世代モビリティ産業の裾野が、そうして他業種・他業界へと広がっていく可能性があるのだ。
「ものづくりは得意だが、ソリューションは苦手」。日本企業を評してそんな声を聞くことも確かにある。だが、地下鉄、JR、バスといった公共交通の運用品質を見てほしい。事故率や遅延率など、どの角度から見ても日本の交通は世界一のレベルにある。それは車両というもののレベルが高いだけではない。管制システムやオペレーションまでを含め、交通ソリューションとしてのレベルが高いからこそ、なのである。
日本は決して、ものづくりだけの国ではないのだ。こうした環境で磨き上げられた交通ソリューションは、グローバル都市においても受け入れられるに違いない。