世界に先駆けて次世代モビリティ社会を実現する 佐瀬 真人 デロイト トーマツ コンサルティング パートナー

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「次世代モビリティソリューション」①超小型モビリティ

将来有望な3つの「次世代モビリティソリューション」について、現状をくわしく見ていくことにしよう。

まずは、「マイクロカー」に代表される超小型モビリティである。速度制限は時速60キロメートル以下(日本の場合)。そのほか、通常の四輪自動車と比べて規格・認証が緩やかであるのが特徴だ。サイドドアがないタイプもあり、欧州では衝突実験が不要とされている。そのため安全性には難があるともいえるが、高速道路以外での走行には問題なく、また安価での開発が可能とあって、各メーカーの参入障壁が低い。

また欧州では原付免許での走行が可能で、消費者にとっては気軽に運転できるというメリットがある。ドイツ、オランダなど一部の国・地域では自転車専用道路の走行が可能で、渋滞の影響を受けない街乗り車として活用されている。

このようなマイクロカーが解決するのは、たとえば駐車場問題だ。日本におけるマイクロカーは、全長2.5メートル、幅1.3メートルが認証基準となっており、通常の駐車場1台分のスペースに3台が並ぶ。都市部における限られた駐車スペースを有効活用するという意味で、大きなニーズが見込まれる。

2012年8月にトヨタ車体が1人乗りのマイクロEV「コムス」(写真)を発表した際、セブン-イレブン・ジャパンが同社の宅配サービスにコムスを採用することを明らかにした。これも駐車スペースが少なくて済むというマイクロカーのメリットを期待してのこと。同社の発表によれば、「今後1~2年の内に3000台のコムスを導入したい」としている。

トヨタ車体の1人乗りのマイクロEV「コムス」(デロイト トーマツ コンサルティング 自動車セクター)


  また高齢者・障害者向けのモビリティとしてもマイクロカーに期待がかかる。これまで徒歩、自転車、電動アシスト自転車などが担っていた交通領域を、マイクロカーが代替するのである。すると、「公共交通機関の利便性が悪い」「自動車以外の移動手段がない」「しかし徒歩では負荷が大きい」といった過疎地に住む高齢者・障害者の移動権を確保できる。

すでに欧州では、ダイムラー、ルノーといった多くのメーカーがマイクロカー市場に参入している。小型四輪車とマイクロカーを含めた「スモールカー」市場で見ると、年約20万台という規模に留まるが、これまでの成長率を維持すると、2020年には年100万台規模の市場になると予想される。

「次世代モビリティソリューション」②カーシェアリング

カーシェアリングについては、すでに欧州を中心にさまざまな事業者が展開し、順調な成長を遂げている。

興味深い事例として挙げられるのは、行政主導のサービスだ。たとえば、パリのカーシェアリングサービス「Autolib’」は、パリ市の「脱クルマ政策」の要として市長の肝いりで導入され、マイカーに代わる「市内移動の足」として普及しつつある。またスイスの「Mobility」は半官半民の公的サービスという位置づけで、国鉄などの公共交通機関と提携。駅前の一等地に配備し、鉄道との共通定期券の発行や、鉄道サービスの一環としての広報活動を行うなどしている。

ダイムラーは、「乗り捨て型」のカーシェアリングサービスを自前で展開している。乗り捨て型とは、路肩や公共パーキングなど、一定エリア内であればどこで乗り捨ててもいい、というもの。「使いたいときに自由に使える」というカーシェアリングのメリットを最大限に生かすビジネスモデルだ。利用時間に応じて課金されるが、1分当たり約40円と非常に安い。利用したいときは、スマホやPC経由で車両の位置を検索し、予約が可能である。

そして注目すべきは、ダイムラー1社でこのビジネスモデルを構築・運営しているのではないということ。地方自治体を巻き込み、またデベロッパーと連携して用地の提供を受けているのだ。またシステムの構築や事業運営を行う上ではさまざまなITメーカーやレンタカー会社と手を組んでいる。ダイムラーはすでに欧州・北米内の17都市でサービスを開始済みで、数年以内には50都市以上に展開する予定だ。

世界的に見てみると、カーシェアリングの利用人口は2011年の段階で約120万人に上っている。2020年には利用人口は1000万人を突破すると見込まれており、マイクロカーに比べると普及の速度は数段速いものになるだろう。

「次世代モビリティソリューション」③EV/プラグインハイブリッド

マイクロカー、カーシェアリングに比べると、EV/プラグインハイブリッドの認知度は高い。将来のCO2削減、脱・石油社会を実現するためには欠かせない次世代モビリティである。

デロイト トーマツ コンサルティングではEVの登場以来、日本国内における消費者意識調査を行ってきたが、そこでもEVに対する認知度が上がってきていることが明らかとなった。もっとも、認知度の上昇に反比例する形で、購入意欲は減少傾向にある。EVに対する理解を深めた消費者が増えた一方で、現実に購入を検討した結果「まだ購入は難しい」と判断する消費者も増えたということだろう。

購入意向を分析すると「環境に優しそうだから」「自宅で充電できるから」といった回答が上位に来る。しかし2012年の調査においては、ここに「災害時に非常用電源にもなるから」「自宅で蓄電池として活用でき、省エネにつながるから」といった回答も加わった。これは2011年の東日本大震災以降、「非常時への備え」という意識が消費者の間で高まっていることが理由として考えられる。反面、購入に際しての懸念材料として挙げられるのは「製品に対して価格が高い(車体価格・維持費・燃費などのトータルコスト)」「走行距離が短い」「燃料補給インフラ(充電ステーション)が十分にないこと」などだ。

どの程度の価格であれば購入検討対象になるか問うと、250万円未満を希望する声が多い。また航続距離については320キロメートル以上を望む消費者が大半だ。ここから、レジャーなど多彩な用途に用いるマイカーとして採用されるには、航続距離が重要な条件であることがわかる。

以上を踏まえて、私は次のような提言をしたい。まず、都市内移動用の次世代モビリティとして、マイクロカーが有望であること。またEVの普及を実現するにも、安価での提供が可能なマイクロEVに期待がかかる。そこにカーシェアリングを組み合わせた「マイクロEVによるカーシェアリング」を産業として確立できれば、高い成長ポテンシャルを秘めた市場になるだろう。

これは一例にすぎず、公共交通機関とモビリティの最適化を実現する「パークアンドライド」や地下鉄と比較して初期投資コストに優れたLRT(Light Rail Transit)やBRT(Bus Rapid Transit)導入も次世代交通・モビリティの一翼を担うソリューションとしてのポテンシャルは高い。個別のソリューションのメリットを最大限に引き出し、デメリットを補うようなトータルソリューションで未来を切り拓く。それが、われわれが提言する次世代モビリティ社会を描く上での要諦である。

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