「愛」という経営理念の下に
グローバル戦略を展開する 山下 茂(ピジョン株式会社代表取締役社長)

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キャメルなかでも独資で進出した中国での成功は素晴らしいですね。

山下2002年に中国に独資で進出したことは、海外展開の大きな転機となりました。ここでもまず、販売網や代理店網をつくることから始めました。それまで海外展開では現地の代理店さんにすべてお願いして販売してもらっていたのですが、やりたいことがなかなかできない状況でした。しかし、中国では自分たちで販売網をつくり上げ、苦労しながらも2年目には黒字化しました。ブランドも、メディアを大々的に使うことをせず、われわれの独自のやり方で築き上げていきました。こうしたモデルは時間がかかりますが、まねをされにくいというメリットがあります。

こうして売り上げが上がり、黒字化したときに、生産工場を2つつくったのです。現地生産が始まると、売り上げが変わらなくても利益分が加算されます。その結果、中国の事業は20%台後半の営業利益率が稼げるようになりました。

キャメル多くの日本企業が海外進出に悩んでいるなかにあって、例外的なモデルですね。

山下中国展開で成功したもう1つの理由として、欲張らずにターゲットを絞ったことも挙げられます。対象顧客を富裕層のトップ20%に絞ったのです。価格は安くなく、現在の為替だと日本の価格より若干高いくらいです。その価格でも通用するのは一人っ子政策によるところもありますが、中国のこの層の方たちは、子どもに使うお金の額は全然気にしません。高くても安心安全な製品を購入したいのです。だから私たちも、むやみに拡大路線をとらず、こうした層をとりこぼさないことに注力し、中国での展開を進めました。

キャメルターゲットを絞ったのは中国進出の成功要因として大きいようですね。

山下最初は20%だったこの層も、今では30~40%に拡大していますからね。今後はこの成功モデルをどうやってインドやブラジルなどほかの国に展開していくかが課題になります。ただ、やはり中国とブラジルやインドは全然事情が違います。たとえばインドはお金持ちの半分以上が地方に住んでいますし、販売網は中国に比べて圧倒的に未整備です。海外展開は、ある国で成功モデルができたとしても、そのままほかの国には適用できません。やはり価格的にも商品の仕様的にも、その国向けに変えていかないと成功はしない。そのことに気づくのにインドで事業を始めてから3年ほどかかりました。

開発力を磨き、ドメインに注力する

キャメル高い開発力も、海外展開を進めていく上で強みとなっているようですね。

山下前社長の大越昭夫も「わが社のコアコンピタンスは開発だ」と言い続けたのですが、私もそのとおりだと思います。開発では特に、お客様の課題、問題に対するソリューションを提供する「基礎研究」に力を入れています。

たとえば哺乳びん、乳首の最も大きなハードルが乳頭混乱(ニップルコンフュージョン)です。赤ちゃんが哺乳びんや乳首を受けつけなかったり、反対に哺乳びんに慣れてお母さんのおっぱいを受けつけなくなるといった問題です。これを起こりにくくするにはどうしたらいいのかをわれわれは科学的に明らかにしてきました。それらの研究成果として「哺乳三原則」を確立したのですが、こんなことをやっている企業はほかにはなく、私たちの哺乳びん、乳首についてはグローバルに見ても強いと思います。

さらに行動観察にも力を入れているのも大きな特徴です。商品を使っているときの消費者の行動をわが社の研究員が見せていただくことでソリューションや新しい価値を提供できるきっかけを見つけようというものです。やはり、机の上で製品開発はできません。現場を見ないと、わからない。

あとはデザイン。合理的かつシンプルに「愛」を形にすることに相当こだわっています。これも重要な開発力の1つです。

キャメルそうした開発は哺乳びんに限らず、あらゆるプロダクトで行われているのですか。

山下介護事業のおむつなども含め、幅広い商品について徹底的にやっています。こうした活動を続けることで開発力を磨き、会社としての強みの源泉にしたいと思っています。

グローバル競争で勝つために必要なGHOとSBU

キャメル・ヤマモト(Camel Yamamoto)
組織・人材面で日本企業のグローバル化を支援するリサーチおよびコンサルティングに従事。特に、日系方式と外資方式が本格的にミックスする「まだら模様のグローバル化」について研究中。「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー・オンライン」および日経ビジネスオンラインで記事を連載中。主な著書に『グローバルリーダー開発シナリオ』(共著、日本経済新聞出版社)、『グローバル人材マネジメント論』(東洋経済新報社)などがある。グローバル マネジメント インスティテュート(GMI)パートナー。

キャメル中国やアジアは独資の形で展開されていますが、一方欧米については買収という形で進めていらっしゃいます。こうした地域にあわせた使い分けについて、手法や方針をお聞かせいただけますか。

山下基本は合弁ではなくて独資でやっていくほうが私は好きです。ただ、時と場合によっては「時間をお金で買う」ことが必要な場合もあります。商品を買う場合もありますし、ブランドや販路を買うこともあります。たとえば米国は販売体制がセールス・レップ(社外の販売代理人)で出来上がっているので、いいレップをつかんでいる会社を買収してわれわれの拠点としたほうが早い。それで2004年に米国でLansinoh Laboratories Inc.をグループ化しました。順番としては最初に独資を検討しますが、時間がかかりすぎたり、リスクが大きいときには買収を検討します。

ただし、買収しても思うとおりにその企業が動いてくれるとは限りません。GEのように買収した企業の文化やルールをすべてGEのものに書き換えるようなことはピジョンにはできないからです。もちろん、好き勝手にやらせるわけにもいかないので、どこかで折り合いをつける必要があります。そのためにも重要なことは、日本のトップと現地のトップのフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションで、双方が納得し、「腑に落とす」ことです。

キャメルグローバル展開全体の統括については、どのようにお考えですか。

山下第5次の中期経営計画が今年から始まりましたが、スローガンを今回、最初から英語でつくりました。“Pursuing world class business excellence, think globally, plan agilely, and implement locally.”というものです。