グローバリゼーションの本質を理解する 松本 晃 カルビー株式会社 代表取締役会長兼CEO

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グローバル進出の4つのキーポイント

松下 カルビーのグローバル戦略に関しておうかがいします。私がいちばんインパクトを感じたのは、松本会長がカルビーにいらっしゃってすぐに、ペプシコと資本提携し、それからジャパンフリトレーの株式を100%取得されたことです。非常にスピーディで、驚きました。

松本 そのこと自体は、実は人がおっしゃるほど自慢することではないんですよ。かねてよりカルビーの3代目社長・松尾雅彦さんが「ぜひともあの会社と仕事をしたい」とおっしゃっていたのです。フリトレーやペプシコという、カルビーにとってのいわば「憧れの人」と一緒に何かやってみたい、という情熱があったのです。ところが当時のカルビーには外国の会社との契約に関して経験がありませんでした。私はそういうことを何度も経験していたので、それが実現できたというだけのことです。

松下 でもペプシコと組んだということで、当然カルビーの世界展開という意味でも、いいパートナーになったのではないですか。

松本 実は必ずしもそうとは言えないのです。そのことについてお答えする前に、まず私たちが今いちばん大事にしているのは日本の市場です。しかし、その日本の市場はこの先成長しません。人口が減っていくからです。特にお菓子やスナックは子どもが減れば需要が減るに決まっています。今、日本は人口1億2700万人ですが、程なく9000万人くらいにまで減る。一方、地球上には70億人いる。それが程なく90億人に増える。単純に言うと、日本の人口は地球上の全人口の1%に減っていきます。その1%の国だけで戦うのか、99%の市場をねらうのか、ということです。

松下 だから海外に、ということですね。

松本 もちろん、海外に行きさえすれば成功するというものでもありません。海外進出を成功させるにあたっては、4つのキーポイントがあります。

その1番目はコストです。今まで国内では適当に利益を乗せて値付けをしていてもよかったのですが、今後は顧客が買ってくれる値段がいくらなのかをつかみ、そこからしかるべき利益を取って、残ったのがコストだという考え方で商売をする必要があります。そのコストが実現できなかったらやめておいたほうがいい。グローバルにビジネスをするのであれば、「お客さんはいくら払ってくれるんだ」「How much can customers pay?」 というところからスタートしないと絶対にうまくいかないのです。

2番目はスピードです。グローバルではビジネスのスピード感が日本とは違います。日本はとにかく遅い。

3番目はローカライゼーション。グローバライズされると、同じものが同じように売れていいはずなのですが、実際には国やそこに住む人々によって好みが違います。特に食べ物はそうです。たとえばスナックでも、日本人はしょうゆ味が好きですが外国に持っていったら駄目かもしれない。えびせんはアメリカに持っていくと、ちょっとニオイがするから駄目だと言われるかもしれない。しかしアジアではもっとニオイがしなければ駄目だと言われるかもしれない。そういうローカライゼーションをせざるをえません。

松下 だからこそカルビーのように、海外の企業と組むやり方もあります。

松本 そのパートナーが4番目です。確かに海外で何かをやろうとしたときには、フリトレーというのはいつも選択肢の1つです。ただ、先ほどの質問に対する回答になるのですが、必ずしもそれがいつもうまくいくとは限らないのです。それはどうしてかというと、フリトレーが立派ないい会社だからです。立派ないい会社というのはどういう会社なのかというと、利益が多い会社のことです。つまり、フリトレーと組んで、その力を借りればできることも多いのですが、その結果、カルビーが儲かるかどうかは別なのです。だから中国ではフリトレーとは組みませんでした。

どこの会社もそうですが、特に西洋の会社は儲からないことはやりません。そんなことをしたら株主から文句が出ます。その点、日本の会社は利益が薄まることに割と平気です。日本では株主が何も言わないし、輸出では儲からなくても、トータルで儲かっていればいいと考える。海外ではそんな考え方の会社はありません。さすがに日本企業も、そういうやり方ではもうやっていけなくなりましたが。

松下 最近は利益ベースで見ると、海外の利益のほうが上がっている会社も増えています。

松本 それは海外で儲かっているというより、国内であまりにも儲からなすぎるからだと思います。本当なら、国内でも同じように稼がなくてはいけない。

松下 松本会長がおっしゃることを実践していくには、当然人も、組織も必要です。松本会長が考えておられるスピード感と、組織や人が育つスピードに、ギャップはありませんか。

松本 それはゼロです。なぜなら、それこそローカライゼーションですよ。カルビーの海外事業に多くの日本人はいらないのです。今カルビーで日本から海外の会社に行っているのは、韓国に2人、中国に1人、タイに1人だけです。米国に出張ベースで行っている人はいますが。米国会社を今度また新しくしましたが、社長は米国人。

このことは、日本という国にとっては由々しき問題です。この先、海外に進出して利益を上げる日本の会社はいくらでもあるでしょう。しかし、それで日本人が企業と同じように成長できるか、リッチになれるかというと、そうはならないのです。なぜなら国際競争になったとき、最近の日本人は優れているとは言えないからです。日本は教育制度も含めて、今までサボってきました。だから優秀ではなくなったし、優秀になろうと努力をしなくなりました。昔ほど一生懸命働かなくもなりました。今は外国人のほうがはるかに一生懸命働きます。その割に日本人は人件費が高い。これを変えないと駄目ですね。

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