グローバリゼーションの本質を理解する 松本 晃 カルビー株式会社 代表取締役会長兼CEO

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経営者はもっと「この指とまれ」を発信する

松下 カルビーの社員は国籍もジェンダーも何も問われないと思うのですが、カルビーの社員である以上、これは持っていてほしいと思う共通のもの、「これがカルビーの社員だ」というものはありますか。

松本 いつも言っていることが2つあります。1つは、「自分が今持っている力で、今自分に与えられた仕事に全力投球してください」ということ。もう1つは、「それだけじゃ駄目だ。自分の腕は細い。この腕を太くするために学べ」ということ。その2つをやらない限りいいことはない。学ぶことも、会社に頼らず自分でやる。特に若い人には、もっと学べと言いたい。そして与えられた仕事に関しては全力投球して結果を出せと。

松下 若い方のなかには、仕事の選り好みというか、「自分はもっとこういうことをやりたい」と主張される方が多いとも聞きます。

松本 若いうちから仕事を選べるなんて、ありえないですよ。小さいときから少年野球でがんばってきたからといって、本人の希望だけで明日からジャイアンツが採ってくれるわけがないのと同じです。会社に入ったら、与えられた仕事を一生懸命やって結果を出すしかないんです。

松下 おっしゃるとおりです。

松本 この点については、企業も悪いですね。日本の会社の大部分がそうなのですが、「この指とまれ」という指を出さない。「私の会社はこんな会社になりたいんだ。こんな考え方でやっている。この会社に来たら、こんなふうになる可能性がある」といって募集すれば、趣旨に賛同した人だけが集まってくるはずです。そうして集まった社員なら、与えられた仕事に当然、全力投球するでしょう。

松下 有名なジョンソン・エンド・ジョンソンのクレドは「この指とまれ」を実践していると思います。このなかで松本会長がいちばん好きなセンテンスはどれでしょうか。

松本 特に好きなのは2段目の最初と最後です。最初のセンテンスは「我々の第二の責任は全社員―世界中で共に働く男性も女性も―に対するものである」と始まり、大事なのは次の一文「社員一人一人は個人として尊重され、その尊厳と価値が認められなければならない」。最後のセンテンスは、「and their actions must be just and ethical.(そして、その行動は神の前に正しく、かつ倫理的でなければならない)」。これがクレドのなかでいちばん大事だと思います。この文章があれば、会社に不祥事は起こりません。なぜならコンプライアンスのように法律を守りなさいと言っているのではなく、倫理を守りなさいと言っているからです。法律は国によっても時代によっても変わるものです。しかし倫理は世界共通で、時代を超えてもほとんど共通です。

松下 コンプライアンスは外に基準があるような気がしますが、ここで求められているのは、自分に対して恥ずかしくないように振る舞うということですね。そして、そういった矜持をカルビーの社員も共通に持つべきだと。

松本 そう思いますが、自分も含めて、なかなかそう簡単にはできないことですね。

松下 最後に、ある程度年齢が上で、管理職をしているような読者へのアドバイスはありますか。

松本 いちばん大事なことは学ぶことです。みんな学ぶということを辛気くさいし、重苦しいし、辛いことだと思っていますが、学ぶというのは本来、いちばん楽しいことなのです。日本では面白くない受験勉強をさせられ、3歳、4歳のころから単なる記憶力の訓練とクイズを解く訓練ばかりをさせられるので、面白くないのは当たり前なのですが。

松下 受験勉強の弊害としては、常に「正解を探してしまう」ことも挙げられます。

松本 おっしゃるとおり、入試には答えが必ずあります。しかもそれは1つです。ところがビジネスの世界には、正解があるかないか、あってもそれがいくつあるかもわからない。だから、受験戦争を勝ち抜いて有名大学を卒業した人が経営者になっても、うまくいくとは限らない。もともとクイズとは違うのですから。

松下 上司が答えを持っているわけでもありません。

松本 ビジネスの世界でのグローバル化というのは、今まで相撲をやっていたのに急にプロレスになったようなものです。違うゲームになったのです。だったら、国も企業も変わらなければならない。それなのに何も変えようとしないのだから、良くなるわけがありません。

松下 せめて自分の会社だけでも 変えていきたいですね。

松本 そのためにも、いろんな会社が世界に出かけていくべきだと思います。海外に実際に出てみることで、会社は、いくらでも良くなると思っています。

(10月24日、千代田区丸の内トラストタワーにてインタビュー)