インタビュアー:松下 芳生(デロイト トーマツ コンサルティング 取締役 パートナー)

カルビー株式会社 代表取締役会長兼CEO
1947年生まれ。京都大学農学部修士課程卒業後、伊藤忠商事に入社。センチュリーメディカル取締役営業本部長(100%伊藤忠商事出資会社)、ジョンソン・エンド・ジョンソン代表取締役社長、同最高顧問などを経て現在に至る。国立大学法人東北大学未来工学治療開発センター客員教授、米国医療機器・IVD工業会(AMDD)顧問、京都府東京経済人会会長、地方独立行政法人長崎市立病院機構副理事長など。
カルビー株式会社
1949年4月30日設立。本社東京都千代田区。社員:3053名(2012年3月末現在)。スナック菓子国内最大手。グローバルでも、じゃがいもをはじめとする野菜や果物など自然の恵みを生かした商品を香港・中国・タイ・シンガポールなどのアジア諸国および米国で販売。生産も現地および近隣国で行っている。
日本人経営者が理解していないグローバルの“当たり前”
松下芳生(以下、松下) 先日、NHKの『クローズアップ現代』で、5.9%だった女性管理職の比率を今年度末までに15%にするという御社の取り組みが紹介されていました。この女性の活用といいますかダイバーシティへの取り組みと、グローバル化はどのように重なっているのでしょうか。
松本晃(以下、松本) ダイバーシティについては、世界のスタンダードに近づけているだけのことです。日本の多くの企業がこの取り組みに遅れていますが、会社を良くするためにはダイバーシティはマストです。私は前の会社(ジョンソン・エンド・ジョンソン)のときからそう思って実行していますが、結果的にダイバーシティを進めた会社は業績が良くなっています。理屈から考えてもこれは当然のことで、両手があるのに片手しか使わなければ、うまくいくわけがありません。
松下 ダイバーシティを進めるには女性の活用だけでなく、多国籍の人材をどう処遇するかとか、いろいろな越えるべきハードルがあると思います。日本の経営者はなかなかそのハードルを越えることができません。
松本 それは日本の経営者の方々が、グローバルでは当たり前のことを、あまり理解されていないからだと思います。そして理解した人だけが先んじて実行して、うまくやっているのです。
松下 松本会長ご自身が、その「当たり前」にお気づきになったのはいつ頃でしたか。
松本 気づいたというより、気づかされたのです。私が日本法人の社長を務めていたジョンソン・エンド・ジョンソンで、「お前はいったい何をやってるんだ」と言われたのが2001年です。「こんなに女性管理職が少ないのは日本とパキスタンだけだ」「パキスタンには宗教上の理由があって、なかなかダイバーシティが進まないのはしかたがない。しかし日本には何の理由もないはずだ」と。そこでダイバーシティの推進を断行したところ、抵抗はありましたが、確かに会社は良くなりました。これはトップが権限と権力を持って、力ずくでやらないとうまくいかないものです。
松下 実際にやってみて初めて、目からうろこが落ちたというところでしょうか。
松本 やれば結果が出ますから。ビジネスはしょせん、結果です。どんなにいいことを言っても、売り上げが上がらず赤字になれば駄目なんです。
松下 これまで何人かの経営者の方にインタビューさせていただいたのですが、ダイバーシティを進めるのが当たり前だという感覚を持たれている方は、外資系企業でキャリアを積まれた方が多いと感じました。グローバルでビジネスをする経験は、今後の経営者にマストでしょうか。
松本 グローバリゼーションということに関して基本的なことを理解していれば、別に外国企業に勤める経験も、外国で生活する経験も必要ないと思います。
グローバリゼーションとは何かを一言でいうと、「一物一価」ということだと思います。私は、グローバリゼーションは1989年の11月に始まったという理解をしています。それ以降、世界中の誰もが均等にビジネスに参加できるようになりました。すると現象として一物一価になるのです。1つのものを米国で買っても中国で買っても日本で買っても同じ値段になるのです。
松下 1989年11月というと……
松本 ベルリンの壁の崩壊です。あれから世の中が変わりました。
グローバル進出の4つのキーポイント

松下 カルビーのグローバル戦略に関しておうかがいします。私がいちばんインパクトを感じたのは、松本会長がカルビーにいらっしゃってすぐに、ペプシコと資本提携し、それからジャパンフリトレーの株式を100%取得されたことです。非常にスピーディで、驚きました。
松本 そのこと自体は、実は人がおっしゃるほど自慢することではないんですよ。かねてよりカルビーの3代目社長・松尾雅彦さんが「ぜひともあの会社と仕事をしたい」とおっしゃっていたのです。フリトレーやペプシコという、カルビーにとってのいわば「憧れの人」と一緒に何かやってみたい、という情熱があったのです。ところが当時のカルビーには外国の会社との契約に関して経験がありませんでした。私はそういうことを何度も経験していたので、それが実現できたというだけのことです。
松下 でもペプシコと組んだということで、当然カルビーの世界展開という意味でも、いいパートナーになったのではないですか。
松本 実は必ずしもそうとは言えないのです。そのことについてお答えする前に、まず私たちが今いちばん大事にしているのは日本の市場です。しかし、その日本の市場はこの先成長しません。人口が減っていくからです。特にお菓子やスナックは子どもが減れば需要が減るに決まっています。今、日本は人口1億2700万人ですが、程なく9000万人くらいにまで減る。一方、地球上には70億人いる。それが程なく90億人に増える。単純に言うと、日本の人口は地球上の全人口の1%に減っていきます。その1%の国だけで戦うのか、99%の市場をねらうのか、ということです。
松下 だから海外に、ということですね。
松本 もちろん、海外に行きさえすれば成功するというものでもありません。海外進出を成功させるにあたっては、4つのキーポイントがあります。
その1番目はコストです。今まで国内では適当に利益を乗せて値付けをしていてもよかったのですが、今後は顧客が買ってくれる値段がいくらなのかをつかみ、そこからしかるべき利益を取って、残ったのがコストだという考え方で商売をする必要があります。そのコストが実現できなかったらやめておいたほうがいい。グローバルにビジネスをするのであれば、「お客さんはいくら払ってくれるんだ」「How much can customers pay?」 というところからスタートしないと絶対にうまくいかないのです。
2番目はスピードです。グローバルではビジネスのスピード感が日本とは違います。日本はとにかく遅い。
3番目はローカライゼーション。グローバライズされると、同じものが同じように売れていいはずなのですが、実際には国やそこに住む人々によって好みが違います。特に食べ物はそうです。たとえばスナックでも、日本人はしょうゆ味が好きですが外国に持っていったら駄目かもしれない。えびせんはアメリカに持っていくと、ちょっとニオイがするから駄目だと言われるかもしれない。しかしアジアではもっとニオイがしなければ駄目だと言われるかもしれない。そういうローカライゼーションをせざるをえません。
松下 だからこそカルビーのように、海外の企業と組むやり方もあります。
松本 そのパートナーが4番目です。確かに海外で何かをやろうとしたときには、フリトレーというのはいつも選択肢の1つです。ただ、先ほどの質問に対する回答になるのですが、必ずしもそれがいつもうまくいくとは限らないのです。それはどうしてかというと、フリトレーが立派ないい会社だからです。立派ないい会社というのはどういう会社なのかというと、利益が多い会社のことです。つまり、フリトレーと組んで、その力を借りればできることも多いのですが、その結果、カルビーが儲かるかどうかは別なのです。だから中国ではフリトレーとは組みませんでした。
どこの会社もそうですが、特に西洋の会社は儲からないことはやりません。そんなことをしたら株主から文句が出ます。その点、日本の会社は利益が薄まることに割と平気です。日本では株主が何も言わないし、輸出では儲からなくても、トータルで儲かっていればいいと考える。海外ではそんな考え方の会社はありません。さすがに日本企業も、そういうやり方ではもうやっていけなくなりましたが。

松下 最近は利益ベースで見ると、海外の利益のほうが上がっている会社も増えています。
松本 それは海外で儲かっているというより、国内であまりにも儲からなすぎるからだと思います。本当なら、国内でも同じように稼がなくてはいけない。
松下 松本会長がおっしゃることを実践していくには、当然人も、組織も必要です。松本会長が考えておられるスピード感と、組織や人が育つスピードに、ギャップはありませんか。
松本 それはゼロです。なぜなら、それこそローカライゼーションですよ。カルビーの海外事業に多くの日本人はいらないのです。今カルビーで日本から海外の会社に行っているのは、韓国に2人、中国に1人、タイに1人だけです。米国に出張ベースで行っている人はいますが。米国会社を今度また新しくしましたが、社長は米国人。
このことは、日本という国にとっては由々しき問題です。この先、海外に進出して利益を上げる日本の会社はいくらでもあるでしょう。しかし、それで日本人が企業と同じように成長できるか、リッチになれるかというと、そうはならないのです。なぜなら国際競争になったとき、最近の日本人は優れているとは言えないからです。日本は教育制度も含めて、今までサボってきました。だから優秀ではなくなったし、優秀になろうと努力をしなくなりました。昔ほど一生懸命働かなくもなりました。今は外国人のほうがはるかに一生懸命働きます。その割に日本人は人件費が高い。これを変えないと駄目ですね。
経営者はもっと「この指とまれ」を発信する

松下 カルビーの社員は国籍もジェンダーも何も問われないと思うのですが、カルビーの社員である以上、これは持っていてほしいと思う共通のもの、「これがカルビーの社員だ」というものはありますか。
松本 いつも言っていることが2つあります。1つは、「自分が今持っている力で、今自分に与えられた仕事に全力投球してください」ということ。もう1つは、「それだけじゃ駄目だ。自分の腕は細い。この腕を太くするために学べ」ということ。その2つをやらない限りいいことはない。学ぶことも、会社に頼らず自分でやる。特に若い人には、もっと学べと言いたい。そして与えられた仕事に関しては全力投球して結果を出せと。
松下 若い方のなかには、仕事の選り好みというか、「自分はもっとこういうことをやりたい」と主張される方が多いとも聞きます。
松本 若いうちから仕事を選べるなんて、ありえないですよ。小さいときから少年野球でがんばってきたからといって、本人の希望だけで明日からジャイアンツが採ってくれるわけがないのと同じです。会社に入ったら、与えられた仕事を一生懸命やって結果を出すしかないんです。
松下 おっしゃるとおりです。
松本 この点については、企業も悪いですね。日本の会社の大部分がそうなのですが、「この指とまれ」という指を出さない。「私の会社はこんな会社になりたいんだ。こんな考え方でやっている。この会社に来たら、こんなふうになる可能性がある」といって募集すれば、趣旨に賛同した人だけが集まってくるはずです。そうして集まった社員なら、与えられた仕事に当然、全力投球するでしょう。
松下 有名なジョンソン・エンド・ジョンソンのクレドは「この指とまれ」を実践していると思います。このなかで松本会長がいちばん好きなセンテンスはどれでしょうか。
松本 特に好きなのは2段目の最初と最後です。最初のセンテンスは「我々の第二の責任は全社員―世界中で共に働く男性も女性も―に対するものである」と始まり、大事なのは次の一文「社員一人一人は個人として尊重され、その尊厳と価値が認められなければならない」。最後のセンテンスは、「and their actions must be just and ethical.(そして、その行動は神の前に正しく、かつ倫理的でなければならない)」。これがクレドのなかでいちばん大事だと思います。この文章があれば、会社に不祥事は起こりません。なぜならコンプライアンスのように法律を守りなさいと言っているのではなく、倫理を守りなさいと言っているからです。法律は国によっても時代によっても変わるものです。しかし倫理は世界共通で、時代を超えてもほとんど共通です。
松下 コンプライアンスは外に基準があるような気がしますが、ここで求められているのは、自分に対して恥ずかしくないように振る舞うということですね。そして、そういった矜持をカルビーの社員も共通に持つべきだと。
松本 そう思いますが、自分も含めて、なかなかそう簡単にはできないことですね。
松下 最後に、ある程度年齢が上で、管理職をしているような読者へのアドバイスはありますか。
松本 いちばん大事なことは学ぶことです。みんな学ぶということを辛気くさいし、重苦しいし、辛いことだと思っていますが、学ぶというのは本来、いちばん楽しいことなのです。日本では面白くない受験勉強をさせられ、3歳、4歳のころから単なる記憶力の訓練とクイズを解く訓練ばかりをさせられるので、面白くないのは当たり前なのですが。
松下 受験勉強の弊害としては、常に「正解を探してしまう」ことも挙げられます。
松本 おっしゃるとおり、入試には答えが必ずあります。しかもそれは1つです。ところがビジネスの世界には、正解があるかないか、あってもそれがいくつあるかもわからない。だから、受験戦争を勝ち抜いて有名大学を卒業した人が経営者になっても、うまくいくとは限らない。もともとクイズとは違うのですから。
松下 上司が答えを持っているわけでもありません。
松本 ビジネスの世界でのグローバル化というのは、今まで相撲をやっていたのに急にプロレスになったようなものです。違うゲームになったのです。だったら、国も企業も変わらなければならない。それなのに何も変えようとしないのだから、良くなるわけがありません。
松下 せめて自分の会社だけでも 変えていきたいですね。
松本 そのためにも、いろんな会社が世界に出かけていくべきだと思います。海外に実際に出てみることで、会社は、いくらでも良くなると思っています。
(10月24日、千代田区丸の内トラストタワーにてインタビュー)