すき家「インフレ下で最高益」が示す不都合な現実 貧しい日本人は安いチェーンにしか行けない時代

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もちろん主軸といっても、すき家の利益も全体の34%ほどあるため、国内・国外ともに利益を上げている、というのが現在の状況だ。 

ただし、日本市場よりも、海外展開が今後の成長のカギになっていくのは間違いないだろう。ニュースを見ると給与アップが盛んに報じられる昨今だが、健康保険料の増額もあり、手取りで見れば顕著には上昇していない。そもそも賃金もOECD加盟国の平均よりも130万円ほど低いというデータもあるし、内需の拡大は厳しい局面にあることは間違いない。

このままいけば、今後は国内市場だけを相手にしていても成長が見込めなくなるかもしれない……そうなったとき、ゼンショーホールディングスは「海外で稼ぎ、その分を国内事業に充てる」といったモデルになってもおかしくない。

この状況はかつてサイゼリヤが「国外で稼ぎ、国内事業を維持している。もはやサイゼの国内事業は福祉事業」といわれた(ただ、近年は国内でもしっかり稼げるようになっているから、事実としては異なっている)ときにも似ている。 

まあ、これはほとんど妄想に近い話であって、実際にどうなっていくかはわからないが、現在のゼンショーホールディングスを見ると、インフレ下にあっても手取りは増えていない日本の一般家庭の強い味方であり、その事業を支える柱として外需の存在感が増している、という状況にあることは間違いないようだ。 

すき家の最高益が映し出す日本の「いま」 

こうした内需が拡大しない原因として、日本の「デフレ気質」があることはよく指摘されることだ。 

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特にそれを先導したのがほかならぬ安価なチェーンストアで、日本人が安価で良質なサービスを求める傾向になった、と批判されることも多い。実際に牛丼のみならず、さまざまな業界で価格競争が行われており、実際にそれが日本人の意識を変えてしまった側面もあるだろう。 

一方、手取り額が顕著に増えないにもかかわらずインフレが起こり続けている現在の状況では、結果的にそうしたチェーンストアが日本の庶民の受け皿になっていることも確かだ。

そして、そうしたチェーンストアを成り立たせるための一つの柱が外需になっている……なんとも皮肉かつ、複雑な状況になっている。 

こういった話を、筆者は最近よく書いている。例えば「渋谷サクラステージ"閑散"に見る『再開発の現実』 渋谷の再開発はもう失敗してしまった…のか?」では、開業から間もないにも関わらず、「ガラガラ」との声をよく聞く渋谷の商業施設「サクラステージ」の不振について、「背景には、おそらく東急グループが思った以上に、『日本人が、貧しくなっている』ことがあるのではないか。インバウンド客に安易に媚びず、日本人にも来てもらおう、楽しんでもらおうと思った結果、響く層が限られた施設になってしまっているのではないか」と指摘した。

サクラステージに入っているおしゃれな飲食店は、もはや普通の日本人が利用するにはお高く、また訪日客相手に振り切っているワケでもないので、結果的に施設の閑散を招いている……という論なのだが、一方でサイゼリヤやガスト、今回取り上げたすき家などが調子を取り戻しているのは、対照的と言える。

ゼンショーが最高益を達成したことはとても喜ばしいことだし、すき家の牛丼が安定して食べられることはミクロのレベルで見れば庶民にとって嬉しいことだ。

一方、マクロな視点から見たときには、手放しで喜べないというか、そこに日本と海外の関係をめぐる複雑な状況が映し出されているとも感じるのだ。

【もっと読む】ココイチ「高級化で客離れ」に見るカレー店の変容 牛丼チェーンなど強敵が参戦、高付加価値戦略に? では、度重なる値上げでついに客離れが生じ始めたCoCo壱番屋の現状について、チェーンストア研究家の谷頭和希氏が詳細に解説している。
谷頭 和希 都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家

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たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ニセコ化するニッポン』(KADOKAWA)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

X:@impro_gashira

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