3つの判断基準で
THE KAITEKI COMPANYをめざす
小林 喜光(株式会社三菱ケミカルホールディングス代表取締役社長)
はじめに言葉ありき
「伝える」ことこそトップの仕事
宋 多くの企業で話を聞いていると、トップマネジメントのいちばんの悩みは、そうしたトップの思いや経営理念をどう社員に浸透させていくか。「伝える」ことに、とても神経を使っています。
小林 池上彰さんの『伝える力』がベストセラーになりましたが、伝えるというのは本当に難しい。なかなか伝わりませんよ。理念、コンセプト、安全、コンプライアンス、どれだけ口を酸っぱくして言ってもなかなか浸透していかない。それでも根気よく伝え続けていかなければいけないんです。それがトップマネジメントの最も重要な仕事だと思っています。あとは後継者を誰にするか。極端な話、リーダーはその2つをしっかりやっていればいい。それぐらい伝える努力は重要だと思っています。
宋 社員に伝えるために、どのような工夫をなさっているのですか。
小林 社内のイントラネットで繰り返しメッセージを伝えたり、社外のマスコミを利用して社内にフィードバックをかけたり、対外的な広報活動より力を入れてやっています。
また、環境問題などは短期的には会社の利益と相反する部分もあります。そうすると、儲けは二の次でいいのかと誤解する人間も出てくる。そのために当社では、社会的に点数の高い事業が財務的にも利益に結びつくということを定量的に統計をとって、数字として見せています。
宋 先ほども述べましたが、「THE KAITEKI COMPANY」のように、小林社長の言葉はとても印象的で、耳に残ります。また、インタビュー記事を拝見していても、ポイントを先に出してお話しになるから、とてもわかりやすい。言葉には普段から気を使っていらっしゃるのですか。
小林 私がいちばん大切にしているのは、ロゴス、言葉なんですよ。新約聖書に「はじめに言葉ありき」と述べられているように、言葉がすべてだと思っています。トップマネジメントの最大の仕事が「伝える」ことである以上、どんな言葉を用いて伝えていくかということには、かなり気を使っていますね。
宋 グローバリゼーションの時代になると、多言語の問題もありますから、言葉はますます重要になってくるでしょうね。
小林 おっしゃるとおりだと思います。翻訳、意訳というプロセスがありますから、言葉を間違えると大変なことになってしまう。その点、日本人の英語ベタにはいささか危機感もあるのですが、韓国の方のように内需が比較的小さいため海外進出を考えざるをえないという切迫感に欠けているのでしょうね。
宋 それはありますね。私も派遣されるときに、現地人以上に現地で活躍する人間になれと海外に送り出されましたから。しかも成功しても本社に戻れる保証はなく、片道切符です。かくいう私もグローバル地域専門家制度の第1号として日本に送られた人間です。
小林 日本人にそういうガッツが失われているのは心配なことです。それでもわれわれは、言葉を使って理念を伝え、グローバルコンペティションに勝つために鼓舞し続けていかなければなりません。
宋 そのためにもKAITEKIという言葉がもっとはやって、企業の社会責任や貢献が高い評価を受ける環境になっていくことを期待しています。
小林 トヨタが「カイゼン」を世界語にしたように、あるいはキッコーマンが「テリヤキ」を世界共通語にしたように、私もKAITEKIを世界共通語にしたいんですよ。それが私の最大の夢です。
(photo: Hideji Umetani)
株式会社三菱ケミカルホールディングス
2005年設立。本社:東京都千代田区。社員:5万6031人(2014年3月現在)。三菱化学、田辺三菱製薬、三菱樹脂、三菱レイヨン、生命科学インスティテュート、大陽日酸の持ち株会社として、グループ全体の戦略策定、資源配分など、経営管理を行う。