中国自動車市場で求められる「イノベーション」 周 磊 デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー
中国市場の成長見込み
まず市場規模で見ると、2020年時点の中国の自動車販売台数を3200万台と筆者は想定している。人口1000人当たりの自動車保有台数が中国は44台(2010年末時点)であり、主要先進国と比べるとさらなる成長の余地はあるii)。しかしながら、ほぼ同等の国土面積を持つ米国との比較では、山地や砂漠などを除いた中国の利用可能国土は米国の約半分、公道距離は米国の60%程度に留まるために、高い自動車保有台数にはならないと考えられる。
自動車販売台数の成長率で見ると、2001年から2011年までの年平均成長率は22.9%となっている。一方、2011年から2020年までの成長率は約6~7%程度と、1桁のGDP予想成長率に近い水準に落ち着くと見込んでいる。この成長率に影響する要因としては、都市部における慢性的な交通渋滞緩和のための都市公共交通機関の整備・自動車登録台数規制・駐車規制強化・自動車保有への課税・交通インフラの整備や、技術向上に伴う自動車の長寿命化による自動車保有年数の伸長が挙げられる。
地域で見ると、今後の市場成長の牽引役は大都市から中小規模都市へシフトするだろう。これまでは北京、上海などの大都市が中国自動車市場の大部分を占めてきたが、これらの市場は成熟化しつつある。中国の経済発展が継続することで、今後の成長の中心は内陸部を中心とした、全体としての人口数が大きい中小規模の都市にシフトするということである。
エネルギー・安全への取り組みと次世代車の推進姿勢
一般的に、自動車産業には「エネルギー」「安全」という2つの不動のテーマがある。
まず「エネルギー」に関してだが、ガソリンの消費量抑制が喫緊の課題となっている。都市圏で工業化やモータリゼーションの進展による大気汚染が深刻化していることや、モータリゼーションがガソリンの総消費量を急増させ、石油の輸入量を増加させていることが問題になっているからだ。
これらの環境・エネルギーの問題を背景に、中国は次世代車の推進政策を積極化している。2012年に政府から発表された「省エネ・新エネ車産業発展計画(2012-2020年)」(節能与新能源汽車産業発展規劃〈2012-2020年〉)のマイルストーンは、2015年までに、電気自動車(以下、EV)とプラグインハイブリッド車(以下、PHEV)の累積販売台数50万台、2020年までに、EVとPHEVの年生産能力台数200万台、累積生産・販売台数500万台となっている。
中国において大都市を除く自動車市場は先進国市場とは異なり、買い替えではなく1台目の購入者が多いのが特徴である。次世代車の普及に伴い、1台目から次世代車を選ぶ消費者が増えると想定され、日本などの先進国とは異なった市場が形成される可能性がある。一方、大都市においては先進国と同様、自動車の保有から使用へのシフトが起こる可能性もある。すでにEVを利用したリースが杭州などで行われており、先進国に引けを取らないスピードで次世代車が浸透しているといえる。
次に「安全」に関してだが、中国の交通事故発生件数は米国や日本などの先進国と比較し、大幅に多い。グローバルで見ると社会が成熟するにつれ、自動車の安全性向上への取り組みが強化される流れがあり、中国も同様の動きと考えられる。安全における取り組みでは、従来はシートベルトやエアバッグといった衝突安全のみであったが、最近は運転支援システム(車線逸脱警報や駐車支援を含む)などの予防安全が注目されている。つまり、自動車業界にとって、新たな事業機会が生まれつつあるといえる。