中国自動車市場で求められる「イノベーション」 周 磊 デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー
中国自動車市場の今後と日系メーカーへの示唆
中国の自動車産業は既存の内燃機関車と次世代車の両方で持続的成長をめざしており、グローバルで見ても魅力的な市場であり続けることは間違いない。市場が成熟するにつれ、消費者はより洗練され、要求水準が高まるものと想定される。外資系自動車メーカー各社は、洗練された消費者をより理解し、かついっそうの現地化を図る必要がある。
また、自動車産業で「エネルギー」「安全」という不動の2大テーマがどう変化するかに対して、世界最大の自動車市場である中国での動向は大きな影響を与えると考えられる。世界の自動車産業関与プレーヤーは中国市場でこの2大テーマに対して積極的に取り組むことで自社のグローバルでの競争力優位性を維持・向上させることが肝要である。
そのなかで、日系完成車メーカーは、生産・販売規模の拡大のみを追い求めるだけでなく、中国社会の一員として、さらに現地に根差したバリューチェーンを深化させる必要がある。その過程で起こった中国発のイノベーションをほかの新興国などに展開していくことも十分ありうるだろう。その実現のためには、中国において人材の採用、育成およびリテンションも今後、重要度を増していくと考えられる。
次世代車の普及に際しては、価格引き下げのため、基幹部品の「三種の神器」のコストを現地生産・調達により引き下げることが有効な手段である。加えて、現状での製品価格は既存の内燃機関車より高いものの、製品ライフサイクルを通じたランニングコストの低さなどをより消費者に理解してもらうために地道な啓蒙活動を強化することが必要である。
また、日系部品メーカーにとっては、擦り合わせ開発およびパッケージ営業を組み合わせることが成功のポイントであると考える。従来、日系部品メーカーは擦り合わせ開発を通じた技術営業を強みとしており、その強みを利用して、系列を超えて外資系・国内資本系完成車メーカーとの取引を拡大することが可能だと考える。あわせて、高付加価値の部品を単品売りするのではなく、パッケージ化した上で、ソリューション営業を行うことが必要になる。
日系メーカーが中国市場で存在感を向上させ、一席の地位を獲得するためには、必要に応じて国内資本系メーカーと協業し、中国発「イノベーション」を生み出していくべきである。その際には、互いの強み・弱みを補完し合うことが重要であろう。すなわち、中国との「共創双赢」(Win−Win)関係の構築こそが、日系メーカーの中国市場における成功のカギである。
注釈
*)自動車に「インフォメーション(情報)」と「エンターテインメント(娯楽)」の機能を幅広く提供するシステム。
参考文献
ⅰ)中国汽車工業協会『2011年汽車工業経済運行情況信息発布会通稿』2012年1月。
ⅱ)中華人民共和国国家統計局「3-1 人口数及構成」、「16-25 私人汽車擁有量」『中国統計年鑑2011』中国統計出版社、2012年。
ⅲ)中国汽車技術研究中心・中国汽車工業協会『2010年版 中国汽車工業年鑑』『中国汽車工業年鑑』期刊社、2010年。