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コンセプトや理論をつくる作法

この希望を上司に伝えたところ、理解と協力を得ることができました。紆余曲折はあったものの、カリフォルニア大学バークレー校のビジネススクールに留学しました。妻と二人でアルバイトをしながら学費を稼ぎ、勉学に遊びに忙しい日々でした。無事にMBA(経営学修士)を取得しましたが、博士課程に進むことになり、そこで運命的ともいえる授業を選択することになりました。当時バークレーのビジネススクールでは、社会科学部門の1科目を第2専門にしなければなりませんでした。経済学、心理学、社会学、オペレーションズリサーチ(計量的手法)のうちから1つを選ぶのですが、私は消去法によって社会学を選択したのです。たいした期待もなく履修したコースだったのですが、結果的に私の知の作法のベースができることになりました。

それは社会学における理論と方法論を1年かけて徹底的に学ぶというコースでした。社会学の優れた著作10点につき、それぞれどのように実証研究をし、コンセプトをつくり、理論化しているのかを分析するという内容です。今も鮮明に覚えているのですが、最初に取り組んだのが、マックス・ウェーバーの名著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』でした。対象の本の著者が存命の場合は本人を招いて、コンセプトができるまでの経験や苦労談を聞き議論をするという体験もしました。そういう議論の輪のなかにいると、不思議なもので自分にもコンセプトづくりができそうな気になってきます。著名な先生だけれども、会ってみればたいしたことはない、普通の人ではないかとさえ思えてくるのです。

このコースでは、最後に自分の理論を提案することになっていました。当時バークレーの社会学は世界一との評価があり、その博士課程の学生に伍して一定以上の成績を取らなければならないという規定がありました。必死に課題に取り組むなかで、概念や理論をつくる作法を徹底的にたたきこまれたこともあって、このコースで提案した理論がのちに私のデビュー作として出版された『組織と市場』(1974年)の原型となり、これは幸いにして多くの評価を得ることができたのです。

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