
管理会計はすべてのビジネスパーソンに馴染みあり?
ビジネス戦略を立てる際、まず自社の状況を客観的に見極めることが必要だ。しかし、多様化、複雑化する経営環境の中で、それを実現するのは非常に難しい。そのような課題を解決するソリューションが「管理会計」だと語るのが、早稲田大学ビジネススクール(以下、WBS)で「管理会計」「財務会計」「財務分析と財務管理」を受け持つ西山茂教授だ。
「会計は、財務会計と管理会計に分かれます。財務会計は、投資家などに向けて決算書を作成する、外向けの報告。一方、管理会計は企業内部で数字を使うもの。管理会計は、英語で『マネジメントアカウンティング』と言う通り、経営管理のための会計です」
会計と聞くと、日ごろ数字に親しみのないビジネスパーソンは身構えがちだが、実は日々のビジネスの中で普通に接しているのだという。たとえば、月次の売上金額や商品の損益分岐点など、社内で数字を使う話はすべて管理会計なのである。
値上げ、原価抑制、数量増でインパクトが大きいのは?

では、具体的に、管理会計はどのような場面で活用されるものなのだろうか?
「身近なのは価格の話です。ある商品の利益を上げることを考える際、
の3つが考えられます。ここで、税金のことは考えずに、これらの要素を同じパーセンテージ、たとえば10%ずつ動かすシミュレーションしてみましょう。まず、
次に、たとえば原価率80%の場合、
さらに、
おそらく実際のビジネスでは、価格を10%引き下げた場合は、販売数増加が10%をかなり超えないとペイできないことが多いでしょう。3つの方法のうち、最もインパクトが大きいのは価格を上げること。実際には、市場や競合の状況もあるので、シミュレーションは複雑になりますが、このように各要素の関係性を数字で明らかにしながら、効率的で論理的な意思決定の支援をするのが管理会計の役割のひとつです」
数字を用いて、比較し、具体的かつ客観的な分析を行うためのツール——それが管理会計なのである。
意思決定と業績評価、2つの役割

管理会計の役割は、大きく分けて2つあるといわれる。ひとつは前述の価格の例が示すような、意思決定のためにいかに数字を使いこなすかということ。これはさらに、長期的に考えるものと、短期的に考えるものに細分化される。
そして、もう一方が、ROI(投下資本利益率)や資本コストなどを用いて、業績の評価や管理に役立てることだ。
「たとえば、企業が業績を売上で評価するなら、営業担当者は『コストをかけても売れればいい』と思います。粗利で評価するなら、『粗利が出るものを売ろう』と思うでしょう。でも『交際費はどんどんかけてもいい』と思うかもしれない。そこで、『交際費を引いた後の利益で評価する』と言えば交際費をあまり使わなくなります。
このように何を評価するかで、従業員の行動は変わります。そのため、企業全体が目指すべき方向にベクトルを合せた評価軸を採用する必要がある。その評価軸を、数値を用いることによって明確化していくのが管理会計の1つのテーマなのです。
ただし、それは部門ごとに適切に行う必要があります。コストダウンが必要な部門もあるだろうし、研究開発費などある程度のコストをかける必要がある部門もある。ですから全体の方向性をまず明確にした上で、そのグループ、部門、あるいは個人にどう動いてもらうかに合わせて、評価軸を変える必要があります。その際にも、管理会計を用いて数値化することで、部門ごとに何が必要かということがわかり、目標を適切に設定でき、フェアな評価を下すことができるというわけです」(西山教授)
また、急速に進行するグローバル化への対応という点でも管理会計を活用することは大きなメリットがある。
「グローバル展開が進んでいる企業でも、数値化することで、国を越えて業績を横に並べて評価できます。ここでも、フェアな意思決定が可能になります。また、戦略や状況を説明する際にも、数値化していると、国や地域の違いがより明確になります」と西山教授。
会計は全ビジネスパーソン必須のスキル

以上のように、非常に強力なビジネスツールである管理会計だが、そのポテンシャルを最大限に生かすために必要なこととは何だろうか?
「(WBSの)授業では、管理会計の基礎から具体的な手法までを学びますが、すべてのツールには目的がある。それを理解した上で、各企業にとって使えるものを導入することが重要です」(西山教授)
その言葉を証明するかのように、管理会計の仕組みがうまく機能している企業は、ツールの本質を理解した上で、自社の目的に合わせてアレンジ、カスタマイズしている。無理をしてすべてを丸呑みしても、かえって効果が出ないこともある。
また、管理会計は、日本では一部大企業で導入されているものの、中堅企業以下ではまだまだ定着しているとは言えない。しかし、大企業にかかわらず、導入するメリットがあるという。
「管理会計を利用すると、まずはビジネスの状況を客観的に見ることができます。さらには、数字を使うことによってビジネスプランを練り上げられる。たとえば、ビジネスプランというと定性的な話から入りがちですが、そこでは『儲かる』という話は漠然としています。そこで、定量的な検討、つまり価格や数量、コストを考えていくと、プランがより具体化でき、その課題やさらなる可能性が見えてくるのです。また、戦略を実行に移す際に、抜けや漏れがなくなるので、ダウンサイドリスクを抑えることにもつながるでしょう」
これらの理由から、西山教授は管理会計を早い段階から導入するメリットを説明する。
不確実性が渦巻く現在のビジネス環境で、事前に数字を用いてさまざまなシミュレーションを行う意義は大きいだろう。
西山教授が教鞭を振るうWBSでは、数字や計算式ばかりではなく、豊富な事例を元にしたさまざまなケースを紹介。数字に馴染みの薄いビジネスパーソンでも興味をもって学べるという。
また、「管理会計」はほとんどの学生が学ぶコアコースのひとつに設定されている。会計というと、経理や財務担当者以外は他人事だと思いがちであるが、適切でスピーディな意思決定や理論的な評価・分析が求められる経営トップはもちろん、各部門のグループリーダーにとって、管理会計は必要不可欠なスキルと言えそうである。
