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スキルを学ぶ前に、論理的に考える力を磨け

  • 制作:東洋経済企画広告制作チーム
多くのビジネスパーソンが、論理的思考力を身につけ、大きな成果と成長を得たいと考えているだろう。そのためにはまず、何が必要なのか。元外務省主任分析官で、鋭い論考で知られる佐藤優氏に話を聞いた。

論理的思考力の重要性

ビジネスパーソンが自らを成長させるためには、何を学び、身につけ、鍛えるべきなのか。よく挙げられるのが、ビジネススクール等で学べるような、仕事をする上ですぐに役立つ、いわば「即戦力」だ。しかし私は、そういったスキルを学ぶ前に、身に付けるべきものがあると考えている。

それは、即戦力とはならないが、ビジネスパーソンが長期的かつ大きく成長するために不可欠なもの、つまり「論理的思考力」である。これは一言で言うと、物事を理性(ratio)を用いて合理的(rational)に理解し、考え、知識や情報を扱う力だ。

なぜ論理的思考力を身に付ける必要があるのか。大きく2つの理由が挙げられる。まず1つは、それがなければ何事に対しても正しく理解し、知識を吸収することができないからだ。都合のよい解釈をしたり、一読して「何となくわかった気」になってしまう。あるいは教材を繰り返し読んでも内容が身に付かない。

OSが弱いままでは、どれほど優れたアプリケーションがあっても、正しくインストールできないか、思うようなアウトプットを出せないのと同じだ。つまり論理的思考力は、すべての勉強の基礎なのである。

もう1つの理由は、私たちが好むと好まざるとにかかわらず、この近代世界が基本的に、ヨーロッパ発の論理の力によって動いているからである。ヨーロッパでは、何かを考えるとき、何か行動を起こすときは必ず「何をめざすか」「何を終わりとするか」という目的を先に設定し、その後、目的にたどり着くまでの道筋を組み立てていく。

これを「teleology」(目的論)という。ギリシャ語のテロス(終末、目的、完成)から来ている言葉だ。ヨーロッパでは死生観をはじめとして、あらゆる物の見方のベースに目的論がある。そしてこの目的論的な物の考え方はヨーロッパから伝播し、今では世界のベーシックな考え方となっている。

もっとも、日本には論理や理屈よりも「情」で物事を決めて進めていく文化があり、それが有効に機能する場面も多々あると理解している。とはいえ、残念ながらそれは世界を動かすベーシックな力学ではない。世の中には論理や理屈に還元できない事象もあるが、なるべく還元し、それをベースに物事を進めようというのが、近代世界のルールなのだ。であれば、ビジネスパーソンにとってこの力を鍛えることは必須といえよう。

Q ビジネススキル以前に身に付けるもの
A 論理的思考力

WHY
(1)正しくものごとを理解し、知識を吸収することができない
(2)世界は論理の力によって動いているから

論理は数学と国語から学ぶ

では、どのようにして論理的思考力を身につけるか。そのために勉強すべきは、数学と国語である。日本の義務教育では「論理」という科目名で教わることはないが、数学と国語を通して、その素養を学んでいるのである。一見すると数学と国語はまるで別物だと思われがちだが、それは誤解であり、どちらも論理的な物の考え方を扱うという点で同じものだ。

論理を「数式」という普遍的言語で表すと数学になる。論理を文化拘束性の高い形で表現すると言語になる。その表現の仕方が違うだけで、数学も国語も意味するところは論理的に収斂するのである。

論理的思考力のベースとなるのが「読む力」だ。数式にせよ、文章にせよ、論理を理解した上できちんと読むには、それなりの訓練がいる。たとえば、経済学の本を読んで「グラフならわかるが数式が出てくるのは苦手」という人がいるが、グラフはすべて数式で表せるのだから、グラフがわかるというのなら数式も読めないとおかしい。グラフと数式の対応関係がわからないのなら、論理的に理解していないということになる。

論理的に理解できているなら、たとえば放物線のグラフを見て「これはこういう関数だな」とだいたい把握できるし、あるいは数式を見て「これはこんなグラフになるな」とわかる。「読む力」があれば、聞いてもわかるようになり、書くことも話すこともできるだろう。裏を返せば、何かについて話したり書いたりができないということは、読めていないからである。

ビジネスパーソンが仕事で接するほとんどの文書は、論理的な文章と数字(数式)でできている。これらをきちんと理解し、得た情報や知識を活用するためには、論理的思考力を高める必要がある。そのために、数学と国語を学び直すことが近道になるのだが、中学・高校の教科書を読み直すような、ごくベーシックな勉強でも効果的だ。これだけでも、論理的思考力をかなり向上させることができる。

論理的思考力を身に付ける「数学」と「国語」

数学=高校3年のレベルをやり直す
経済や金融の専門家をめざすのでなければ、高校3年次までの数学をやり直せば、ビジネスパーソンに必要な論理的思考力をつけるには十分。数学の勉強を重ねていくと、経済現象や国際情勢なども「この決定は微分の発想でなされている」「背理法の考え方だな」という理解ができるようになるだろう。

国語=大学入試問題と中学教科書を読み直す
大学入試問題は、客観的に採点できる解答でなければならないため、論理的な文章しか出題されない。また、中学の国語教科書に掲載されている文章は、いずれも論理性が高く、社会人が論理力を学ぶ十分なレベルにある。

論理を学んでこそ「論理の外側」が見えてくる

これまで述べてきたように、ビジネスパーソンの知的成長には論理的思考力が欠かせない。そして論理的思考力を高めていけば、上位10%のビジネスリーダーになることが可能だ。しかしその上、つまり企業のトップやトップ10になるためには、それだけでは足りない。論理的思考力があるのは前提にして、「論理の外側」、つまり、論理だけでは説明がつかない事象についても理解する必要がある。たとえばそれは人の心であり、世界の不条理である。

確かにこの世界は論理の力で動いているが、この世のすべてが論理で読み解けるわけではない。「論理を数式で表現したもの」であるはずの数学ですら、ある段階では厳密に矛盾のない形ではありえず、哲学の領域へと接近していく。

そうなると数学をベースにした経済学も矛盾学ではないことも明らかだ。つまり、論理の世界だと思われた数学でさえ、論理の外側を含む学問なのである。

では論理が通用しない事象に対する備えは、どのようにして身に付けることができるのだろうか。その方法の1つが、小説を読むことだ。時代小説でも経済小説でも何でもいい。多くの場合小説には、論理の世界ではありえないような極端な状況や人物が描かれている。これらを娯楽として読むことも結構だが、「代理経験」を得るという目的を持って読んでみることをお勧めする。

人間一人が人生のなかで経験できることなど限られている。たとえば犯罪などは、そもそも経験すべきではない。しかし、企業犯罪を扱った小説を読めば、犯罪者の真理がわかる。「どのように企業犯罪に巻き込まれるのか」を知ることで、自分が無自覚のうちに犯罪に関与する危険を遠ざけることもできるだろう。

このように自分では実際には経験できないことを小説を通じて経験し、論理だけでは推し量れない、現実の社会や人間を理解するための手がかりとするのである。これは、小説を世界の縮図として類比(アナロジー)的に読むということでもある。小説『山椒魚戦争』(カレル・チャペック著)のなかで筆者がチェスをするくだりがあり、こんな独白をする。

「いま自分が選んだこの手は、かつて誰かが使った手に違いない。自分もその誰かと同じように追い詰められ、負けるのだろう」。これがアナロジーである。今自分が置かれている状況を、別の時代、別の場所に生じた別の状況との類比に基づいて理解すること。論理では読み解けない、非常に複雑な出来事を前にどう行動するか。それを考えるときにアナロジーは効力を発揮する。

ポイント:読書は「代理経験」で読め!
1)論理だけで推し量れない現実社会や人間を理解する手がかりを得られる
2)他者と類比して見ることで、アナロジー思考を身に付けられる

 

「論理の外側」は学ぶな!?

一例を挙げよう。たとえば村上春樹氏のベストセラー『IQ84』。私がこの本で興味を持ったのは、ある登場人物には月が2つ見えるのに、別の人物には月が1つに見えるという設定だ。同じ事象にもかかわらず、人によってまったく別のからくりが見える。これをアナロジーとしてTPP問題を読み解くとどうなるか。ある人は「TPPは自由貿易だ」と主張する。確かにTPPはアジア太平洋地域において自由貿易を推進するものである。

 

そのため自由貿易推進論者はTPPに反対する。ところが別の見方がありうる。一見するとTPPは自由貿易だが、実は純粋な自由貿易ではない。本来の自由貿易というのは普遍的な観念であり「アジア太平洋地域」という特定の区域に導入するものではない。TPPはむしろアジア太平洋地域とその他の地域の間に障壁を設けることであり、保護主義(関税同盟)に近いとも言えるのである。このように小説を読み、アナロジーの力を鍛えることで、世の中をより的確に理解し、深く考えることができるのだ。

しかし注意が必要なのは、こうした「論理の外側」を学ぶためには、その前提として論理的思考力が欠かせないことだ。論理を理解して初めて、ここまでは理屈でわかるが、ここから先は理屈ではわからない、という仕分けができるようになる。上位1%に属するビジネスリーダーが司馬遼太郎の歴史小説やアンドリュー・カーネギー自伝やロックフェラーの「回顧録」を読もうとするのは、彼らが「論理の外側」を学ぼうとしているからである。

ビジネスパーソンが若いうちからそれを読むことを否定する気はないが、もし論理的思考力を鍛える余地がまだまだあるのに、それをなおざりにして、小説や偉人伝などの「論理の外側」を学ぼうとしているのであれば、それは知的成長という観点からは悪手と言わざるを得ない。

「論理の外側」を学ぶこともビジネススクールで各種スキルを学ぶのもいいが、ベースとして論理的思考力がなければ何も吸収できない。ビジネスパーソンとしての大きな成長を望むなら、まずはすべての基礎である論理的思考力を鍛えるべきであろう。

『Think!』第45号「キャリアを高める知的成長の技術」所収
「論理的思考力を鍛えるための数学と国語」を再構成

佐藤 優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。作家、元外務省分析官。
同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。ロシア情報収集・分析のエキスパートとして活躍。著書に『3・11クライシス!』(マガジンハウス)、『国家の危機』(KKベストセラーズ)、『自壊する帝国』(新潮社、第38回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回新潮ドキュメント賞受賞作)、『国家の罠』(新潮社、59回毎日出版文化賞特別賞受賞作)等、著書多数。