スキルを学ぶ前に、論理的に考える力を磨け 佐藤優氏が説く、ビジネスパーソンの成長に不可欠な視点

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

論理を学んでこそ「論理の外側」が見えてくる

これまで述べてきたように、ビジネスパーソンの知的成長には論理的思考力が欠かせない。そして論理的思考力を高めていけば、上位10%のビジネスリーダーになることが可能だ。しかしその上、つまり企業のトップやトップ10になるためには、それだけでは足りない。論理的思考力があるのは前提にして、「論理の外側」、つまり、論理だけでは説明がつかない事象についても理解する必要がある。たとえばそれは人の心であり、世界の不条理である。

確かにこの世界は論理の力で動いているが、この世のすべてが論理で読み解けるわけではない。「論理を数式で表現したもの」であるはずの数学ですら、ある段階では厳密に矛盾のない形ではありえず、哲学の領域へと接近していく。

そうなると数学をベースにした経済学も矛盾学ではないことも明らかだ。つまり、論理の世界だと思われた数学でさえ、論理の外側を含む学問なのである。

では論理が通用しない事象に対する備えは、どのようにして身に付けることができるのだろうか。その方法の1つが、小説を読むことだ。時代小説でも経済小説でも何でもいい。多くの場合小説には、論理の世界ではありえないような極端な状況や人物が描かれている。これらを娯楽として読むことも結構だが、「代理経験」を得るという目的を持って読んでみることをお勧めする。

人間一人が人生のなかで経験できることなど限られている。たとえば犯罪などは、そもそも経験すべきではない。しかし、企業犯罪を扱った小説を読めば、犯罪者の真理がわかる。「どのように企業犯罪に巻き込まれるのか」を知ることで、自分が無自覚のうちに犯罪に関与する危険を遠ざけることもできるだろう。

このように自分では実際には経験できないことを小説を通じて経験し、論理だけでは推し量れない、現実の社会や人間を理解するための手がかりとするのである。これは、小説を世界の縮図として類比(アナロジー)的に読むということでもある。小説『山椒魚戦争』(カレル・チャペック著)のなかで筆者がチェスをするくだりがあり、こんな独白をする。

「いま自分が選んだこの手は、かつて誰かが使った手に違いない。自分もその誰かと同じように追い詰められ、負けるのだろう」。これがアナロジーである。今自分が置かれている状況を、別の時代、別の場所に生じた別の状況との類比に基づいて理解すること。論理では読み解けない、非常に複雑な出来事を前にどう行動するか。それを考えるときにアナロジーは効力を発揮する。

ポイント:読書は「代理経験」で読め!
1)論理だけで推し量れない現実社会や人間を理解する手がかりを得られる
2)他者と類比して見ることで、アナロジー思考を身に付けられる

 

次ページ「論理の外側」は学ぶな!?