スキルを学ぶ前に、論理的に考える力を磨け 佐藤優氏が説く、ビジネスパーソンの成長に不可欠な視点
論理は数学と国語から学ぶ
では、どのようにして論理的思考力を身につけるか。そのために勉強すべきは、数学と国語である。日本の義務教育では「論理」という科目名で教わることはないが、数学と国語を通して、その素養を学んでいるのである。一見すると数学と国語はまるで別物だと思われがちだが、それは誤解であり、どちらも論理的な物の考え方を扱うという点で同じものだ。
論理を「数式」という普遍的言語で表すと数学になる。論理を文化拘束性の高い形で表現すると言語になる。その表現の仕方が違うだけで、数学も国語も意味するところは論理的に収斂するのである。
論理的思考力のベースとなるのが「読む力」だ。数式にせよ、文章にせよ、論理を理解した上できちんと読むには、それなりの訓練がいる。たとえば、経済学の本を読んで「グラフならわかるが数式が出てくるのは苦手」という人がいるが、グラフはすべて数式で表せるのだから、グラフがわかるというのなら数式も読めないとおかしい。グラフと数式の対応関係がわからないのなら、論理的に理解していないということになる。
論理的に理解できているなら、たとえば放物線のグラフを見て「これはこういう関数だな」とだいたい把握できるし、あるいは数式を見て「これはこんなグラフになるな」とわかる。「読む力」があれば、聞いてもわかるようになり、書くことも話すこともできるだろう。裏を返せば、何かについて話したり書いたりができないということは、読めていないからである。
ビジネスパーソンが仕事で接するほとんどの文書は、論理的な文章と数字(数式)でできている。これらをきちんと理解し、得た情報や知識を活用するためには、論理的思考力を高める必要がある。そのために、数学と国語を学び直すことが近道になるのだが、中学・高校の教科書を読み直すような、ごくベーシックな勉強でも効果的だ。これだけでも、論理的思考力をかなり向上させることができる。
数学=高校3年のレベルをやり直す
経済や金融の専門家をめざすのでなければ、高校3年次までの数学をやり直せば、ビジネスパーソンに必要な論理的思考力をつけるには十分。数学の勉強を重ねていくと、経済現象や国際情勢なども「この決定は微分の発想でなされている」「背理法の考え方だな」という理解ができるようになるだろう。
国語=大学入試問題と中学教科書を読み直す
大学入試問題は、客観的に採点できる解答でなければならないため、論理的な文章しか出題されない。また、中学の国語教科書に掲載されている文章は、いずれも論理性が高く、社会人が論理力を学ぶ十分なレベルにある。