INDEX
地図アプリを頼りに指定された場所に着くと、灰色の波板壁の古びた倉庫があった。「ここであってるのかな?」。看板は特にない。だが、入り口の扉に貼られたドクロマークのステッカーが、ここで間違いないと教えてくれる。
「こんにちは」。しばらくすると、Tシャツにハーフパンツ姿の、身長150cmほどの小柄な女性が柔らかな笑顔で近づいてきた。
「5年ぶりくらいですね。なんだか、印象が変わりましたね」
「ご無沙汰しています。よく言われます」
そう返すと、彼女はさらに表情を緩めて、ドクロの扉の先へと案内してくれた。
教科書に掲載された「美しい瞬間」
彼女の名は岡本碧優(みすぐ)、20歳。2021年に開催された東京2020オリンピック、スケートボード・パーク競技で4位入賞を果たしたスケーターだ。
世界ランク1位、金メダル有力候補として臨んだ大会だった。予選は順当に1位で通過した。だが、同日午後に行われた決勝は、1本目、2本目とミスをして完走できなかった。岡本は最後の滑りを前に4位につけていた。
最終滑走者。彼女の滑り次第でメダルの色が確定する。岡本は持ち前のスピード感あふれる滑りと、高さのあるトリックを繰り出し、逆転の金メダルに挑んだ。しかし最後の大技で転倒。表彰台を逃した。
彼女を一躍時の人にしたのは、そのあとだ。


※ログイン後、コメント入力が可能です。