彼女にしかできない大技をひっさげ、その年の岡本は無双した。
13歳で初めて世界選手権で優勝すると、続くオリンピック選考対象の大会で4連勝。「ライバルとの戦いというよりは自分自身との戦いだった」と振り返る。
しかし、自国開催のオリンピックに向けて順風満帆に見えた彼女の心に黒い影が忍び寄っていたことを、中学1年の少女は知る由もなかった。
13歳の女王に忍び寄る黒い影
「『負けたくない』という気持ちがモチベーションになっていました。でも、540をできる選手がほかにいないので、出る大会、出る大会で優勝できてしまう。目立ちたがり屋なので、最初はうれしかったんですけど、だんだんとやる気が落ちてきちゃって……」
何と戦っているのか。岡本はスケートボードへの情熱を徐々に失っていった。
「小さい頃はできない技ができるようになることが本当に楽しかった。でもだんだんレベルが高くなると、危険な技にも挑戦しなきゃいけないし、失敗してコケたら痛い。『なんでこんな怖いことをずっとやり続けなきゃいけないんだろう』って、うまくなればなるほど楽しさが失われていきました」
怖い。痛い。練習に行きたくない。「あの頃はスケボーが本当に嫌いで、ずっとやめたいと思っていました」。
筆者が初めて彼女と会ったのはその頃だ。
感情をあまり表に出さない。恐ろしいほどに落ち着いた中学生。その歳で世界の頂点を極めるくらいだから、肝が据わっているのは当然。自分のものさしで測ろうとしてはいけないと納得したが、そのときの印象は間違ってはいなかったのだと、ようやく答え合わせができた。
新型コロナウイルスの感染拡大により、東京オリンピックが1年延期になったことで、歯車の狂いは誤魔化せないほどに大きくなっていく。1年間の猶予期間に、彼女だけの武器だった540を成功させたライバルが現れた。岡本はさらに高難度の技に挑戦したが、練習になかなか身が入らない。


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