この大鍋で一度に揚げるのは、最大3人前まで。タネを入れすぎると油の温度が下がり、衣がべちゃっとなる。3人前に絞ることで、あのクリスピー感を生み出している。
タネを入れる順番にも、厳密なルールがある。火の通る時間が食材によってまったく違うため、時間がかかるものから順番に入れていく。1人前に2本のエビが入るなら、3人前では6本。人数や注文の品の組み合わせによって、「どの順番で入れるか」「いつひっくり返すか」「どういう状態になったら上げるか」まで、事細かくマニュアルに落とし込まれている。
職人の頭の中にあった暗黙知を、徹底的に言語化してマニュアル化する。それが、誰でも同じ味を出せる仕組みの核となっているのだ。
さらに3年前からは一部店舗にオートフライヤーも導入した。
「大鍋への思いと利点を語っておきながらお恥ずかしいですが、実は4店舗で使っています」と長瀬さんは少し照れながら言った。オートフライヤーもメーカーと共同開発した特注品で、大鍋と変わらないレベルまで仕上げたという。大鍋とオートフライヤーを両方備えたハイブリッド店舗も誕生し、年齢や国籍を問わず、誰でも活躍できる環境を模索し続けている。
ただ、仕組み化したからといって、機械任せにするわけではない。
金子半之助は「食体験」も大事にしたいと、工藤社長は言う。
「お客さんには入店して席に座った瞬間からごま油の香りを嗅いでいただいて。目の前では職人が天ぷらを揚げている。その空間で期待感が高まって、穴子が1本どんと乗った天丼が届く。そこまでを含めて金子半之助だと思っています」
五感で楽しむ体験を届けることが、行列が途切れない理由でもあるのだろう。
2カ月で“揚げ手”が育つ
では、誰がその大鍋を操るのか。答えは「職人でなくてもいい」だ。
「もしあなたがアルバイトで入っていただいたとしても、2カ月あれば全タネ揚げられるようになりますよ」と長瀬さんは筆者に言った。週3日、1日3〜4時間のトレーニングを受ける、という前提でだ。
まず1杯分の天丼をきちんと揚げることから始め、2食、3食、複数の組み合わせパターンへと段階的に習熟度を上げていく。トレーナーが付き添いながら実践の中で覚えるというシステムだ。通常「職人」といえば、下積みや修行で技術を習得するのに何年もかかるイメージだ。金子半之助では、ゼロからのスタートでもステップアップできる仕組みを作っている。だから、どの店舗でも同じ質の天ぷらが提供できる。

