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メタトレンドとグローバル経営戦略 松尾 淳(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)

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産業界に目を向けると、「サービス業による経済の牽引」が1つのトレンドとして見て取れ、第3次産業の成長率が第1 次・第2 次産業を大きく上回ることが予想される。サービス業のなかでも、特に、情報産業、プロフェッショナルサービス、教育、ヘルスケアといったセクターが経済成長を支えていくものと考えられる。ただし、継続的な雇用不安や収入格差などの「個人へのプレッシャー」が増大する可能性もあり、それによってもたらされる個人消費の低迷は、今後も経済にネガティブな影響を与える一要素となりうるだろう。

メタトレンド2:グローバル化と地政学

世界のパワーバランスは多極化、あるいは無極化の一途をたどっており、国際的な影響力が分散する傾向にある。「一極化の終焉」による政治的な対立や軍事的な衝突のリスクの高まりは否定できない事実だろう。今後、国家間のパワーバランスは、中国経済や欧州連合の協調関係の行方、特に中国とロシアで増加傾向にある軍事費の動向、米国や日本が成長力を取り戻せるか否かといったさまざまな要因に左右される。

また、貿易自由化への取り組みにより、「国境なきビジネス」が加速されることで、地域貿易圏からの輸出額は大きく増加すると見込まれている(図表3)。この動向は、多国籍企業のあり方にも影響を与える。自由化の流れをいち早く自社の機会に結びつけられる企業にはより大きな成長が見込まれる。あるいは、税務コストの最適化を目的に、税制的に有利な地域に本社機能を移転する動きは今後も続くだろう。結果として、2020年までにFortune 500企業の半数近くが、アジア地域に本社を移転すると予想されている。

メタトレンド3:社会と人口動態

人口動態や教育水準などの社会的な状況の変化も、今後のビジネスに大きな影響を及ぼすトレンドである。

先進国のみならず、新興国でも「都市化」や「高齢化」の波が押し寄せている。この「加速する人口動態の変化」により、現在の新興国から多くの世界的なメガシティが誕生する。高齢化に対応するためのヘルスケアシステムも必要になると考えられており、メガシティが誕生する過程においてインフラ構築に巨額の資本が投入されるだろう。

また、新たな顧客ターゲットである「次の10億の消費者」に対するアプローチが、企業の成長を支える重要な戦略になる。販売戦略の立案にあたっては、新興国における中流層の大幅な増加が見込まれるものの、世界の可処分所得は、現在と同様、先進国に大半が集中することに注意が必要だろう(図表4)。

新興国における教育水準の向上と企業のグローバル化による「人材市場の変化」も、注目すべきトレンドだ。人材争奪戦が激しさを増す一方、バングラデシュなどの新たなアウトソース先の台頭が期待される。

もう1つのトレンドは、インターネットの普及や交通網の発達による「開かれた/接続された社会」の実現だ。通信速度の上昇や携帯端末の普及により、情報共有のあり方は大きく変化した。一方で、交通網の発達がもたらしたベネフィットは計り知れないが、感染症発生時にはパンデミックを引き起こすなど、ビジネスに悪影響を及ぼすリスクが存在する。

メタトレンド4:自然と資源

拡大する大気汚染による健康被害や世界的な気候変動に対する懸念から、産業界に対する規制は強化され、より「環境問題」に配慮した事業活動が求められることになる。

「エネルギー供給の多角化」は、イノベーションがもたらしたトレンドの1つだ。今後も化石燃料がエネルギー資源の大部分を占める状況は変わらないと考えられるが、バイオ燃料やバイオマスなど、新たなエネルギー資源が生み出されている(図表5)。同じくイノベーションがもたらしたトレンドが「エネルギー効率」の向上である。産業の発展や新興国の経済成長により、エネルギー需要は今後も増加し続けると考えられるが、バッテリーの性能向上や省電力化により、十分なエネルギー供給が確保できる可能性がある。

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