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新興国進出に必要な3つのケイパビリティ 野村 修一 デロイト トーマツ コンサルティング ディレクター

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新興国市場での新たな動き

次に、新興国における新たな動きについても2点、確認しておこう。

(1)日本企業を買いたがっている
 最近、「日本企業を買いたい」という新興国企業が増えている。彼らからすると日本企業は高品質の製品を開発する力を持ちながら、国内に同業者が多すぎるため利益率が低く、時価が低迷しているので「お買い得」なのだ。また日本企業の販売力が強い地域と、新興国企業の得意とする地域は重なることがあまりないので、シナジーも発揮できる。そして何より、日本企業が新興国市場に打って出るためには低いコストで生産するノウハウが要求されるのだが、新興国企業はそれを持っている。だから彼らは、日本企業が自分たちとアライアンスを組むことは非常に効果があると考えているのである。

これまでクロスボーダーM&Aは、先進国企業が新興国企業を買収するというケースがほとんどだったが、今では先進国と新興国、双方向からM&Aが活発になってきている。

(2)日本のファイナンスの影響力低下
 日本は過去に新興国へ向けて多額のODAや、低金利の長期ファイナンスなどの経済協力をしてきた。こうした事実は日本人ビジネスパーソンの間では、新興国市場進出の武器になると信じられていた。ところがいまや、それを上回る魅力的な条件でのファイナンスが他国から提案されているのだ。

日本では2008年に当時の福田康夫首相がアフリカ開発会議TICAD IVで、「5年で40億ドルコミットメントします」といって拍手喝采を受けた。しかしその後、中国の胡錦濤主席は2012年7月の「中国・アフリカ協力フォーラム」で、「3年で200億ドル、それも無利子で融資します」と発表した。中東のオイルマネーも柔軟で迅速にローンが実行されると高く評価されている。一方、日本がこれまでODAを行ってきたアジアでは、そのODAを必要としない「卒業生」が増えている。

これからはファイナンスの力を過信するのではなく、本当に相手国のことを考え尽くした総合提案力─たとえば資源国なら、資源を採り尽くした後の地場産業をどう育成するかという提案までしていくことがより重要になるのである。

日本企業への提言

新興国市場の進出を成功させるために、日本企業は今後どうすればいいのか。最後に、守りと攻めの観点から2点ずつ提言をさせていただきたい。

まず1点目は、新興国の拠点に強いCFOを送ること。日本企業では伝統的に製造業が強いため、海外の拠点には、まず工場長が派遣されるケースが多くある。しかし今、新興国では、ビジネスを始めるスピードを早めるため、100%出資ではなく企業買収や合弁などの形を取ることが増えており、このような合弁会社や買収した会社の実態掌握を、工場長ができるかというと疑問である。

企業統治には、金の動きを見て実態掌握できるCFOの力が必要になる。卑近な例でいうと、交際費を握るだけでも従業員や組織の動きをつかむことができるものだ。こうしたCFOの人材育成は新興国市場を開拓しようとする企業にとって重要かつ急務であるといえる(なお、そのCFOは必ずしも日本人である必要はない)。

2つ目は、国別に異なるリスクを全体的に把握し、重要リスクに対応すること。多くの企業は「新興国で事業を営む以上はリスクを取っているということに違いないが、自社がどのリスクを取っているのかがわからない」状況である。リスクはゼロにすることはできない。しかし、把握することで、どのリスクを取るかを選び、最小化することは可能だ。

たとえば英国に拠点展開する企業は、英国Bribery Actによって、たとえインドにおいて賄賂を贈れば、自社ではなく、代理店や現地コンサルタントがビジネスを円滑に進めるために賄賂を使用した場合であっても、その雇い主である日本企業が処罰の対象になってしまう。新興国ではこのようなリスクをゼロにすることはできないが、ならばこそ、把握し、可能な限りコントロールする必要がある。

リスクマネジメントの要諦は、問題が起こる前に自社のリスクを把握することだが、リスクを網羅的に把握するのは非常に難しいものである。そこで国や地域ごとのリスクを見いだすことがポイントになるのだが、たとえばDeloitteのEnterprise Risk Servicesでは「リスクインテリジェンスマップ」を作成して各国のリスクを分析している(図表1)。

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青色部分はどの国でも当てはまるリスク、緑部分は当該国独自のリスク、黄色部分は最近当該国で新たに焦点となっているリスク(例:『賄賂不正対応』) 出所:Deloitte Enterprise Risk Services

3つ目は、攻めについて。

まず、在外の日本公館を徹底的に活用することが挙げられる。日本政府は「新成長戦略」の目玉として、電力、水、鉄道などのパッケージ型インフラ輸出政策を推進している。その施策の1つが「インフラプロジェクト専門官」であり、現在50カ国、58公館、126名が配置されている(2012年6月現在、外務省)。

私自身、それ以前には大使館を訪問してビジネス協議をすることなどなかったのだが、最近は出張の都度、必ずその国の日本大使館に行くようにしている。そして行くたびに、インフラ・ビジネスにかかわる重要な示唆をいただいている。彼らも民間企業の担当者との情報交換を求めており、専門官たちのビジネスセンスも日増しに高くなってきていると実感する。新興国進出において、彼らの知見を利用しない手はない。

日本企業がターゲットとすべき残された新興国市場は、次第に市場規模が小さくなる。今後は、国単位ではなく、メコン広域経済圏や東アフリカ共同体(EAC)といった地域経済圏が主役になってくるだろう。そこでは、広域経済圏を縦貫する道路や港湾といったインフラ構築支援とともに、当該経済圏と日本との経済連携協定(EPA)などのビジネス環境の整備を交渉していくことが必要となる。新興市場攻略ではますます官民連携が重要になるのである。

そして最後になるが、冒頭で述べたように、日本企業の多くが自らの戦略を語れないことは、今後のグローバル経営競争においては致命的だ。これまでは「ものづくり」「製品」だけで通用したかもしれないが、今後のグローバル経営では、特にグローバル外資企業と激しく競い合う新興国においては、ビジネスプランや戦略の優秀さでアプローチをしてほしいものだ。ビジネスプランさえ確立できていれば、「新興国パートナー候補とこのポイントに合意できれば、合弁事業のFS実施に関する覚書(MoU)を結ぶ」と面談に臨む前に方針を固められ、スピードある投資決定をすることができる。

日本企業、そして官民一体となったオールジャパンでの新興国市場での成功に貢献できれば望外の喜びである。

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