子どもの知的好奇心は感動と美意識から生まれる 脳科学者×音楽家「感動体験が人生のエンジン」

激しい雷の後、少し景色が変わった
――お二人は子ども時代、どんな自然環境で育ちましたか?
落合 崇史氏(以下、落合) 私は栃木県宇都宮市に隣接するさくら市(氏家町と喜連川町との合併)という自然豊かな場所で育ちました。晴れると日光の青い山々がきれいに見えるのが当たり前の生活。家から少し歩けば田んぼがあり、初夏にはカエルの合唱が盛大に鳴り響いていたのをよく覚えています。そして夏場は雷、冬場は霧がよく起こる地域でした。雷で停電するとか、霧が深いので車をゆっくり走らせ、結局目的地に早くは着かないとか、自然現象に左右されるような子ども時代だったんです。

音楽家・音楽監督
東京藝術大学 音楽学部 作曲科卒業。『スリル・ミー』『太陽に灼かれて』『プラトーノフ』『エレファント・マン』『夜叉ヶ池』『ハムレットQ1』『ヴェニスの商人』など、幅広い舞台作品の音楽監督を務める。また、音楽ユニット「CePiA」「underscore」、出身地の栃木県での文化事業など、多岐にわたり音楽活動に取り組む
瀧 靖之氏(以下、瀧) 私は北海道旭川市出身なのですが、落合さんと同じように、幼少期は自然に囲まれていました。大雪山がきれいに見え、田んぼではカエルの鳴き声がよく聞こえる、そんな環境でしたね。
――そうした自然体験が、その後の活動にどう影響しましたか?
落合 私は子どもの頃から家の向かいの音楽教室でピアノを習い、高校生くらいの時には将来は音楽の道に進みたいと思っていました。そして、音楽のどの道に進むかを考える中で、1つのきっかけとなる出来事が高校3年生のときにありまして。
夏休みの夕方、家でピアノを弾いていると、空気を揺さぶるような激しい雷がドカーンと落ちて、電気が消えたんです。その瞬間にふと気づくものがあり、思わず鍵盤をジャーンと弾いてみて。その後、以前からピアノの先生に「ここはもっとずっしり深い音で」と言われながらなかなか出せなかった音を、「あ、こんな感じかも」と弾けるようになったんですよね。
私は、こう考えました。自然にはないものを作り出すのがアートなので、ネイチャーとアートは反意語でありながら、ネイチャーがなくてはアートもない。両方が合わさったときに、何か人に感動を与えるのかもしれない、と。もともと演奏するだけでなく、音を自分で作ることやアレンジすることに興味があったのですが、その出来事を機にそちらの道に進みたいと強く思いました。
瀧 とても興味深いお話です。私の場合、子ども時代にキアゲハという、黄色を基調に黒・赤・青などの色が入った蝶の模様に心を打たれ、そこから蝶が好きになり、昆虫が好きになりました。さらには自然全般に興味を持ち、自然科学に携わるようになって、芸術も好きでという人生を歩んできました。

医師・医学博士/東北大学加齢医学研究所 教授/CogSmart代表取締役 CSO
東北大学加齢医学研究所および東北メディカル・メガバンク機構で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達、加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIはこれまでに約16万人に上る。2019年に東北⼤学発の医療テクノロジー系スタートアップ企業CogSmartを創業
「美意識」が育む、オンリーワンの道の幸福
瀧 何か感動や気づきを得ることで、生きるうえでの尺度のようなものができる。まさにこれは「美意識」の自覚ですよね。美しいものを美しいと感じることができる。すると、苦労をしてでもそこをもっと探求・経験したいという知的好奇心が生まれます。
落合 美しさはシンプルに「好き」という感情につながっていると思います。それに、数式のような1つの答えが見えないからこそ魅了される。そうした知的好奇心というと、私の場合、子ども時代にゲームやテレビで聞いて心に残った音楽を、なんとか自分で探り探りピアノで弾くことがありました。そこから、ゲーム音楽にクラシックが生かされる場合があることや、音楽にはたくさんのジャンルがあること、例えば和の音楽は音階が違うから悲しげに聞こえるといったことも音楽の教科書で調べるようになっていって。子どもの頃に聞いていたカエルの合唱や自然現象も音楽だと思えて、知識も増えました。
そうするうちに、自分は音楽をアレンジしたりするのが「好き」なこともわかったので、まさに知的好奇心が道を拓いていったと感じます。それに、音楽監督として駆け出しのころ「シーンを支える音が欲しい」と演出家の方に言われて、試行錯誤のうえ、子どもの時代に聞いていた自然のしとしとと降る雨をピアノの音で表現したんですね。そしたら 「こういう感じ」ってしっくりきて。そこでも気づきを得ましたね。

瀧 やっぱり美しいものや感動を味わったときの高揚感や、その後の自分を突き動かす力は、すごいですよね。私も、幼少期にキアゲハに魅了されてから、今でも蝶が好きでいろいろなところへ見に出かけますが、そうなるとお金も必要でしょう。そのために一生懸命働いたりすることもまったく苦ではない。好奇心を行動に移していく美しいサイクルが生まれています。
落合 本当に、ほかには比べようのないパワーがあると感じます。私の場合は、つねに頭の中に音楽というか音のようなものがずっと流れていて。それをちょっと切り出して提供するのが作曲なんですよね。音楽を追究しながら、自然や地域に根差したものと音を組み込んだ活動を今後もやっていけたらなと思います。
――自分が感動するポイントに気づくことも、好きな道を進むために重要だと感じます。
瀧 それには自分を俯瞰的に見ること、いわゆるメタ認知が大切です。私自身、自分は何をしているときがすごく幸せで、何が強みであるかをよく考えていました。僭越ながら、きっと落合さんもそうだったのではないでしょうか。ただ、子どもが最初からそれを自覚するのは難しいと思いますので、保護者の方が「ここがあなたの強みなんだよ」と事あるごとに伝え、自分を客観視するサポートをしてあげることが最良だと思います。
心から好きなことや強みがわかると何がいいかというと、自分の価値観を追求してオンリーワンの道を進めることです。その道であれば、無駄に人と比べたりせずに済むし、自分のすばらしさも人のすばらしさもきちんと評価できます。

落合 それって、すごく幸せなことですよね。私の場合は、親がいい意味で放任主義だったので、「子どもが好きなことをやっているのだから、好きにさせておこう」みたいな感じでした。好きにさせてもらっているので、こちらもちゃんと宿題をやったりして。
おかげで気が済むまでピアノを弾けましたし、そうするといろいろな人から褒められて成功体験になり、もっと集中して練習しようという好循環が生まれていました。幸いにも子ども時代に集中したい対象があり、集中できる環境があったからこそ、この道で仕事をできているのだろうと思います。
瀧 よくわかります。私の両親も、好きなことを徹底的にやらせてくれました。「やるな!」と言われたことが、ほぼ記憶にありません。
自然を五感で感じることで美意識は磨かれる
――一方で、自然への触れ方も大切ではないでしょうか。その勘所を教えてください。
瀧 子どもはまだ十数年ほどしか生きていませんので、自然の面白さがわからないことも少なくありません。そんなときでも、家族が横で目いっぱい楽しんでいるのを見れば、「自然って、ワクワクするものなんだな」と感じやすいのです。これは、他者の行動や感情を脳がまねるように反応する神経細胞、ミラーニューロンシステムの働きになります。
もう1つは単純接触効果です。ある対象に頻回に接することでその対象に対する興味関心が湧きやすくなるのです。例えば繰り返し釣りに行ったり昆虫採取に行ったりしていると、釣りや昆虫に興味関心が湧いてくると思います。それを踏まえると、親がワクワクできるという観点もぜひ入れたいところですね。
それと図鑑でもネットでもいいのですが、「これを見に行くんだよ」と、可能な限り勉強っぽくなく気軽な予習をするよう心がけるのも効果的です。ほんの少し事前に知っておくだけで、リアルな体験にグッと前のめりで臨めたりしますので。

落合 「図鑑で見たアレが、本当にここにある!」となるわけですよね。また、手触りや匂い、音といった現物だからこその質感も、より鮮明に感じられそうです。
それでいえば、釣りやハイキングといった体験の後に「今日、どんな音が聞こえた?」と聞くのもいいと思います。ちょっと川や山に入るだけで、鳥の音、水の音、風の音など多様な音があふれています。そういう音は意識せずとも耳に聞こえているので、それに気づけるよう背中をそっと押してあげるイメージです。そうして自然の音に気づけると、今度は日常のさまざまな音にも意識が向くようになります。
瀧 すばらしいですね。音はもちろんのこと、「どんなすてきな色があった?」「どんな匂いを感じた?」など、ほかの五感に広げてもよさそうです。
美意識とは結局、経験でこそ磨かれるのですよね。自然はそのための感動体験を得る宝庫であることを、ぜひ多くのご家庭で生かしていただけたらうれしいです。

グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。

フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から、創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志の下、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。
withコロナ時代において、中核事業の「フィッシング」は「3密」を避けたアウトドアスポーツ・レジャーとして評価され、「ニューノーマル」が定着する中、その業績も好調だ。

環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。
50年近く続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)の運営にも力を入れており、未来を担う子どもたちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。
「グローブライド」という社名には、地球を舞台にスポーツの新たな楽しみを創造し、スポーツと自然を愛するすべての人に貢献したいという思いが込められている。
世界中の人々に人生の豊かな時間を提供する「ライフタイム・スポーツ・カンパニー」として、今後も地球を五感で楽しむ歓びを広め、アウトドアスポーツ・レジャーの未来を拓いていくユニークな企業だ。