作家・夢枕獏に見る、一流が「釣り」にハマる理由 親との「ライバル関係」と「好奇心」が人生を彩る

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釣り
『陰陽師』『神々の山嶺』『キマイラ』など数々のベストセラーを手がけ、名実ともに日本を代表する人気小説家の一人、夢枕獏氏。多趣味なことでも知られ、中でも釣りは「最期の瞬間もしていたい」と語るほど。その原点となった幼少期の体験も振り返りつつ、釣りが人生に与える影響について、脳医学者の瀧康之氏とオンラインで対談した。子育て中の親が参考にしたい、釣りを介した父親との関係や、娘との距離感とは――。

創作の原動力は好奇心。現実と架空の融合が面白い

――夢枕さんは、釣り、登山、観劇、作陶など多彩な趣味をお持ちです。作家を職業にされた理由は何だったのでしょうか?

夢枕 獏氏(以下、夢枕) いちばん好きなことだったからだと思います。子どもの頃からSFやファンタジー小説が好きで、自分でも面白い話を書きたくて作家になりました。70歳を超えてなお、いまだに同じ気持ちですね。進歩していないのかな(笑)。

夢枕獏
夢枕 獏氏

――夢枕さんにとって「好き」とは、どのような感覚ですか?

神々の山嶺
第11回柴田錬三郎賞に輝いた『神々の山嶺』は、フランスにて長編アニメーション化された後、日本でも2022年7月から上映された。

夢枕 ワクワクドキドキが近いかもしれません。好奇心とも言うでしょうね。実は、僕の小説のパターンはほとんど、「ここから向こうまで行く」というものなんです。空海、ダライ・ラマ、エベレスト、格闘技などテーマは違えど「この場所から別の場所に行って、何かをして戻ってくる話」である点は共通しています。場合によっては、戻ってこられないこともありますが(笑)。ただ、完全なるフィクションを書くことには興味がありません。架空の物語であっても、例えば仏典など現実世界に存在するとっかかりがないと、想像するにしてもつまらない。

瀧 靖之氏(以下、瀧) イマジネーションを創作物にアウトプットするとき、人間の脳は多くの情報を必要とします。夢枕さんは、強い好奇心を原動力に史実や事実をそしゃくして、あるところは自分なりの味付けをして、小説という形でご自身の世界観を生み出されているのだなと感じます。

瀧靖之
東北大学加齢医学研究所 教授
瀧 靖之氏

人間は「10歳までに好きになったこと」から逃れられない

――夢枕さんは、小説と並んで「釣り」も大切にされています。著書『平成釣客伝 夢枕獏の釣り紀行』では、「いつも、ペンか竿、どちらかを握って生きている」と書かれていますが、釣りとの出合いを教えてください。

夢枕 小学校低学年の頃には、親父に連れられて釣りをしていました。釣りを好きになったのも、親父の影響が大きいですね。ただ、親父は手取り足取り教えてくれたわけではなく、「お前は適当に遊んでいなさい」と僕をほったらかして、自分で勝手に楽しんでいました。最後に一緒に釣りをしたのは、親父ががんで亡くなる前のこと。あまり動けなかったせいもあり、僕が次々と釣る横で、親父は収穫ゼロ。よほど悔しかったのか、そのあと一人で釣りに行っていましたね。なんだかライバルみたいな関係でした。

夢枕獏氏の『大江戸釣客伝』と『平成釣客伝』
著書『平成釣客伝 夢枕獏の釣り紀行』(手前)には、釣りの作法から人生における「釣り」の意義まで、釣り人としての夢とリアルが綴られている。

 幼少期に親と共通の「好きなこと」があると、コミュニケーションの起点になりますよね。会話が増え、成長してからのコミュニケーションスキルにも好影響です。また、親子の思い出はノスタルジーの観点からも大切です。ノスタルジーは単純な「過去への懐かしさ」にとどまらず、脳の健康に重要な幸福感をもたらすことがわかっています。

夢枕 いま2歳になる孫にも、いつかは僕と一緒に釣りで遊んでもらいたいのですが、早めに連れて行かないと別のことを好きになってしまうんじゃないかと危惧しています(笑)。

 人が生涯にわたって興味を抱く対象は、10歳ごろまでに好きになったものが多いと聞いたことがあります。子どもは、いわゆる単純接触効果で、経験する機会が多い物事ほど好きになります。なので、お孫さんともたくさん釣りに行くとよいかもしれませんね。私も昆虫採集が大好きなものですから、息子が1歳半のときから昆虫網を持たせて、一緒に山に入って遊んでいました。彼はいま中学生になりましたが、自然科学に強い関心を寄せているので、子どもの頃の経験は確実に生きているのだと思います。

釣りは人間の「知力・筋力・精神力」すべてが試される

――多趣味な夢枕さんをそこまで夢中にさせる釣りの魅力とは、いったい何なのでしょうか?

夢枕 釣りの魅力は、退屈しないことかもしれません。誤解されがちですが、釣りというのは実はのんびりしていられない遊びです。どんなに釣れなくても、心の中ではつねに「なぜ釣れないのか」「どうしたら釣れるのか」と考え続けています。魚って、「三角形」の中で生きているんですね。自分が対峙する魚が、「捕食する」「捕食されない」「生殖する」のどの位置にいるのかを考えて、動き方を変えたり餌を選んだりします。それはまるで、自分と対話しているような感覚です。

――それほど没入できるということですよね。

夢枕 釣りをしているときは、魚のことだけを考えています。例えば、大魚キングサーモンが竿の先にかかっているというのは、大事件中の大事件で、ほかのことなんて考えられません。いわば、自分の家が火事になっているときにほかのことを考えられないのと一緒で、自分の持てるすべての知力・筋力・精神力で全力投球しないと戦えないんです。

 考えるべきことが山ほどあるという点で、釣りは知的好奇心を満たすのに十分な行為だといえますね。第一線で活躍している方で釣りを趣味にする人は多いですが、皆さんやはり、知的好奇心を満たすことが自分の幸福につながるということをよく理解されている気がします。

夢枕獏氏とオンラインで対談する瀧靖之氏

夢枕 釣りは、その人の能力に応じていろいろな種類があるというのもよいですよね。タナゴ釣りからキングサーモン釣りまで、それぞれの体力・知力・財力に応じたちょうどよい楽しみ方がちゃんとあるんです。日本はどこでも川や海が近く、そこには必ず魚がいますから、釣りを趣味にすれば一生退屈しないですよ。

――「退屈しない」ことが重要なのですね。

夢枕 そうですね。僕は最近、がん、心臓、腰の手術などで入退院を繰り返していたのですが、何が困ったって、ベッドに寝ているときが退屈で仕方ない。頭の中でストーリーや俳句を作ってやり過ごしましたけど、やっぱり体を動かせないのはしんどいんですね。改めて、頭も体も退屈しない釣りは本当にいい趣味だと思いました。だからといって、24時間365日釣りをしろと言われても困る(笑)。適当に仕事があって、その合間に釣りをするからいいんですよね。

親の価値観で子どもの好奇心を阻まない

――親は子どもに、夢枕さんのように好きな仕事や趣味で人生を彩り、充実した日々を過ごしてほしいと願うものです。親御さんに向けてアドバイスをお願いします。

夢枕 子どもが何かに好奇心を持ったとき、親の価値観でよい悪いを判断しないことですね。間違いなく「やってはいけないこと」はありますが、それ以外なら、むしろやらせてみるほうがいいんじゃないですかね。だからといって、親の考えを抑え込んでしまうのも違うと思う。例えば昔、僕の娘が高校生の時に髪を染めたんです。髪を染めることの善しあしは判断できませんが、「僕は好きじゃない」と伝えました。娘は「私の自由でしょ」と言い返してきましたけどね(笑)。

自室からオンライン取材に対応する夢枕獏氏

 一人の人間として子どもと向き合う姿勢はすばらしいですね。私も、子どもには「伴走」することを徹底しています。勉強もゲームも楽器も、上から教えるのではなく、目線を対等にして一緒に楽しむ。まさにライバルのように、共に高め合い、苦しみ、喜ぶ。これが、子どもとのコミュニケーションにおいて重要なことではないでしょうか。

グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。

フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から、創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志の下、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。

withコロナ時代において、中核事業の「フィッシング」は「3密」を避けたアウトドアスポーツ・レジャーとして評価され、「ニューノーマル」が定着する中、その業績も好調だ。

環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。

40年以上続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)の運営にも力を入れており、未来を担う子どもたちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。

「グローブライド」という社名には、地球を舞台にスポーツの新たな楽しみを創造し、スポーツと自然を愛するすべての人に貢献したいという思いが込められている。

世界中の人々に人生の豊かな時間を提供する「ライフタイム・スポーツ・カンパニー」として、今後も地球を五感で楽しむ歓びを広め、アウトドアスポーツ・レジャーの未来を拓いていくユニークな企業だ。