子育てが「おうち時間」だけではもったいない理由 自然の中でこそ育まれる、子どもの能力とは?

自然が脳の使い方を「ボトムアップ」へシフトする?
――自然の中へ入ることで、脳にどのような好影響があると考えられますでしょうか?
瀧 靖之(以下、瀧):私たちは、普段から思考・判断・学習などの認知機能(高次脳機能)を使って生活しています。人が多い場所で生活していると、いろいろなことに注意を払い、脳がトップダウンで行動や感情をコントロールする傾向が強くなります。しかし森の中では、木々の緑や香り、川のせせらぎなどのさまざまな要素により、身体感覚が優位にシフト。ボトムアップで脳に刺激が届くため、頭が冴える感覚につながり、ひいてはメンタルヘルスにも好影響をもたらすと考えられています。

東北大学加齢医学研究所 教授 瀧 靖之
小野なぎさ(以下、小野):私は企業研修で皆さんを森に案内するとき、「考えることをやめて感じることを優先しましょう」とお伝えするようにしています。そうすると、静かになると思いきや、皆さん逆にわっとお話しされます(笑)。私自身も森に行くと、話したいことや書きたいこと、自分の考えが言語として降ってくる感覚があります。これも脳が普段と違う使われ方をしているからなのでしょうか?

一般社団法人 森と未来 代表理事 小野 なぎさ
瀧:そうだと思います。トップダウンでなくボトムアップで脳を使うと、普段ぐっと抑え込んでいる五感が解放され、クリエーティビティーが高まるのかもしれません。

小野:なるほど。そのせいか、いつもとは違う表情を見せる人が多いような気がします。企業の役員の皆さんを研修で森にお連れしたときも、最初は緊張した雰囲気がありましたが、徐々に童心に帰ったかのようにワクワクした表情に変化したのが印象的でした。木の樹液を発見したときは、全員大興奮でぷにぷに触っていましたね(笑)。
「鳥のさえずりが聞こえるね」「木が揺れているよ」など、同じ目線で語り合うのも、自然の中に身を置くからこそできること。それによって関係性を強めたり、修復したり、人間同士のつながりをよりよいものにできると感じます。

自然と向き合うことで「自己効力感」を高める
――子どもの場合は、自然に身を置くことで、どのような能力を育むことができるのでしょうか?
瀧:一番は、勉強やスポーツなど、あらゆることを楽しみながら追求するために必要な能力「知的好奇心」です。森や川、海には、さまざまな動植物がいます。とくに幼少期は、好き嫌いの志向がそれほどはっきりしていないので、何にでも興味を持つはずです。私自身、医師や経営者としてさまざまな仕事にチャレンジしていますが、「知りたい」「面白い」という知的好奇心の原点は、幼少期の昆虫採集にあると思っています。
小野:勉強と違って、自然界に明白な正解はありませんが、知ることそのものが楽しいんですよね。「この生き物はどうしてこんな動きをしているんだろう」「この穴はどこまで続いているんだろう」と追求したくなります。たとえ正解が見つからなくても、体験そのものに面白さがあり、知る喜びを感じるはずです。

瀧:感情は脳の扁桃体(へんとうたい)、記憶は海馬という領域がつかさどっており、位置的に隣り合っています。このことから、感情と記憶は密接に相関しており、「楽しい」や「ワクワクする」といった感情をもたらす体験は、記憶に残りやすいといわれています。さらに言うと、楽しいという感情が、もっと高度な知識を得たいという知的好奇心を高める土台になります。こうしたことを踏まえても、自然体験がさまざまな脳機能の向上に好影響をもたらすといえるでしょう。

――とはいえ、自然体験は楽しいことばかりではなく、困難に直面することも多いですよね。
小野:そうですね。ただ、「自分の思いどおりにならないこともある」という、ある種の受容の感覚を得ることができます。私は2015年に一般社団法人を設立して、代表理事を務めていますが、楽しいこともあれば、大変なことやつらいことも多いです。でも、心が折れたことはほとんどありません。なぜかと考えたとき、自然体験が豊富だからなのでは、という結論に至りました。森に入って雨が降ったからといって、怒り出したり、ずっと落ち込んでいたりはしませんよね。自然界で得た受容の感覚は、人間社会を生き抜くためのレジリエンスにも通ずる気がしています。

瀧:自然の中では、未知の出来事に遭遇し、自分自身で対処しなければならない場面がたくさん出てきます。逆に言えば、「頑張ったら何とかなった」という成功体験を通じて、「自分ならできる」「きっとうまくいく」と思える「自己効力感」を得ることができます。

小野:人間が何かしなくても、自然は勝手に循環します。落ち葉が分解されて土となり、その土が木の成長を支える栄養とな
親は「子に教える」のではなく「子と競争する」べき
――小野さんは東京生まれでいらっしゃいますが、子どもの頃はご両親に連れられて自然体験をされていたそうですね。そのときのご両親との記憶について教えてください。
小野:親が一緒に楽しんで遊んでくれたこと、認めてくれたことをよく覚えています。例えば、父は山菜採りが好きだったので、私も夢中で採っていて、「これは食べられる、食べられない」というのを自然に学んでいきました。母は、私が一生懸命に土を掘ってできた穴を見て、「何に使おうか」と聞いてくれたり、ダンゴムシを手のひらいっぱいに集めて持っていくと、「ありがとう」と言ってくれたり。大人になってから知ったことですが、実は母はダンゴムシがすごく苦手だったそうです(笑)。

瀧:すばらしいスタンスですね。子どもを褒めて認めることは、親子の愛情形成に欠かせない要素です。子どもの自己肯定感を高めることにもつながります。家の中にいると、なかなか子どもを褒めるポイントを見つけにくいですが、一緒に自然体験をすると褒めるきっかけがたくさん見つかるはずです。

小野:自然体験から遠ざかっている親御さんもいらっしゃるはずなので、子どもに遊び方を教えようとするよりも、一緒に遊んだり競争したりするとよいかもしれませんね。あとは図鑑を持参して、何かを見つけたら子どもと一緒に調べてみるのもおすすめです。お互いに発見があるでしょうし、楽しい時間を過ごせると思います。
瀧:知識があると、より一層楽しめますからね。「このチョウはなぜ白いんだろう?」「この花はなぜ赤いんだろう?」と疑問に感じたら、一緒に調べてみる。子どもは親の姿を模倣しますので、とにかく親自身が深く考えずに楽しむこと。子どもに勉強させようという下心は持たずに、純粋に楽しむ姿勢を大切にしてもらいたいですね。

グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。

フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から、創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志の下、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。
withコロナ時代において、中核事業の「フィッシング」は「3密」を避けたアウトドアスポーツ・レジャーとして評価され、「ニューノーマル」が定着する中、その業績も好調だ。

環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。
40年以上続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)の運営にも力を入れており、未来を担う子どもたちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。
「グローブライド」という社名には、地球を舞台にスポーツの新たな楽しみを創造し、スポーツと自然を愛するすべての人に貢献したいという思いが込められている。
世界中の人々に人生の豊かな時間を提供する「ライフタイム・スポーツ・カンパニー」として、今後も地球を五感で楽しむ歓びを広め、アウトドアスポーツ・レジャーの未来を拓いていくユニークな企業だ。