「川遊び」する子どもがなぜか賢く育つ必然の理由 中本賢と脳医学者が解説「自然×親」の影響とは

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(左)中本 賢氏
(右)東北大学加齢医学研究所 副センター長 瀧 靖之氏
幼少期の自然体験は、子どもの心身の発達に大きく作用する。とくに「『川遊び』は子どもの自己肯定感や知的好奇心を育む」、そう語るのは、脳医学者の瀧靖之教授(東北大学)と、俳優の中本賢氏。中本氏は30年以上前から、多摩川周辺の小学生に「ガサガサ(岸辺の茂みを探ること)」を通して川遊びや自然観察の魅力を伝えてきた。2人の対談から、自然が子どもを引きつける理由、そして子どもを川遊びに「夢中」にできる親の心構えが見えてきた。

川遊びは子どもを「大人の物差し」から解放する

――子どもに川遊びを教えると、どのように変わりますか?

中本 賢(以下、中本):知的好奇心や探究心が盛んになるようですね。川で力を発揮するのは、他の教科が苦手な子どもたち。先生方も、その想定外な反応には驚いています。そりゃそうですよネ。普段入っちゃいけない場所で授業するんですから(笑)。奇想天外なリアクションは、毎回新鮮です。

きっと、面白いからそうなるんだと思います。「一生懸命」ではなく「夢中」。見た目は同じでも、心のありようが違う。少しズレてる子どもたちのほうが、圧倒的に魚捕りはうまくなります。僕からすると、どんどんうまくなる子どもたちは百点満点。そのすばらしい成長が、成績評価に生かされないのは残念ですね。ほかの授業でも「夢中」を引き出す、ガサガサみたいなツールがあると便利かもしれませんネ。

今の時代、奇想天外な子こそ必要な人材だが、扱いにくいという理由で学校では排除されてしまう

瀧 靖之(以下、瀧):確かに、学校はテストの点数を重視する傾向がありますね。本来学びとは、面白いと感じるものであるべきです。

中本:夢中になるのは、学業成績がよい子と得意でない子の両極端になることが多い。どちらかと言うと、扱いにくい子どものタイプ。いわゆる自分の物差しを持つ子で、行動も独創的です。逆に、言われたとおりに動く子たちは、毎回「あぁ~面白かった」で終わっちゃう。扱いやすいけど、展開は貧弱。はてさて、次の時代はそんな「規格外」が伸びるかもしれませんね。

:移りゆく社会を生きる中で、その変化に興味を持つことはとても大事。その原動力は知的好奇心です。学業に好奇心を持てない子も、何かに対する情熱は必ず持てます。とくに自然は刺激が多い環境ですから、アウトドア中に夢中になれるものを見つけるケースが多いのもうなずけますね。

子どもは「自然の原則」に引きつけられる

――なぜ川遊びは子どもの知的好奇心や探究心を刺激するのでしょうか。

中本:僕たちは、自然を肌で感じる暮らしから長く遠ざかっています。自然は、原理と原則しか存在しません。春夏秋冬の順番は入れ替わらないし、野生動物と触れ合えばリアルな生死を目の当たりにする。日々の不条理に気づくことなく、そんな原理原則に出合うのが新鮮に感じるんじゃないでしょうか。

:おっしゃるとおりです。子どもは実体験を通して、自然が構造的に存在していることに気づきます。早くから塾に通う子も多いですが、嫌々机に向かうか楽しんで学べるかは、幼少期にどこまで知的好奇心を育んだかによります。本来、知的好奇心は誰にでも備わっていますし、自主的に学ぶほど成績は上がりますから、将来子どもに学歴を授けたければ、まず知的好奇心の育成を大事にしてほしいです。

子を取り巻く大人はどう生きるべきか

――子どもには、自然の楽しさを知る大人の存在が必要ですね。

中本:僕は出張授業でも川遊びを教えますが、担任の先生が川を楽しんだクラスは、決まって子どもたちも夢中になります。子どもは簡単に状態を見抜きます。関わる大人が、ちゃんと楽しむのは、子どもに好影響なんじゃないかなぁ。

そもそも僕は、自分の好きなことを授業にしています。仕事じゃないので、我慢してはやらない。子どもたちの反応に、実はいつも「夢中」にさせられています。教えているようで、いつも教わっている。本気です。笑ったり大声出したり……どうやら、子どもたちには「このオジサン、変で面白い」と思われるみたい。大人になった彼らと出会うと、みんな同じことを言います。まぁ、俳優としてはうれしいけど、いいのかなぁ~って思いますヨ。

ものの魅力は、人を介することで伝わる。感情が動くとさらに好奇心が刺激され、より記憶に残る

:感情を伴う情報には心が揺さぶられますよね。実は、人が情報を探索するのは、原始時代に食料を探索していた名残で“本能”なんです。ただ、情報探索のフィールドはサイバー空間。無限に広がる自然と違って、インターネット上の情報は有限です。人間の感性をあらゆる角度から刺激するという意味でも、生身の人間を含め自然に勝る教師はいません。

中本:同じ環境活動でも、問題解決を模索するやり方もあります。しかし、多摩川でソレは通用しない。流域人口380万人、流れる水の約6割が下水処理水。少し前まで洗剤の泡で埋もれた自然でした。探すまでもなくすべてが問題です。

大切なのは、そんな自然環境が多くの努力により改善しつつあるという事実。北極のシロクマを哀れんでいても、家前の排水溝でザリガニに異変が生じているかもしれないとは考えもしない。そもそも、蛇口から出る水がどこから来るのか、トイレの汚水はどこに流れるのかも知らない。そんな暮らしをしながら、地球環境を憂いている。僕には、それがちょっと滑稽に感じます。

子どもたちに問題を教えるのではなく、遊ばせて魅力を伝えたほうが、きっと未来に希望が持てる気がします。

いま、子どもに必要なのは「ワンパク質」

――子どもの将来を思うのが親心ですが、結局どう接すればよいですか?

:私は医者でもありますが、親に言われて医者になった人は周りにほとんどいません。私を含め、自分自身が「面白い、役に立ちたい」と思って志していますね。どんな学問にも、先人からの膨大な積み重ねがありますから、そこに興味をもったうえで、さらに自らでも深掘る必要があります。将来的に、主体的な知的好奇心は必要不可欠なんです。これは、幼少期から、ありのままの自分や素直な興味を受け止めてもらえていたかが大きく影響すると思います。知的好奇心は、親の温かいまなざしのもとで育まれるんです。

中本:小学5年生になり夏休みを過ぎたころから、子どもたちの表情が暗くなり始める。原因を先生方に尋ねたことがあります。中学受験が近づくに連れ不安定になる……とのコト。周りの期待をヒシヒシと感じ始め、他と比較されたりしながら不安になる。きっと、将来に自信が持てなくなるんでしょうね……低学年から関わってきた子どもたち。とてもかわいそうに思えます。

子どもの川遊びを嫌がる親は多いですが、川での子どもを見ると心変わりする方も多いですヨ。それは、子どもが家で絶対見せないような生き生きした顔をするから。親も「これはやらなきゃ」と思うみたい。親との関わりはとても直接的で、子どもを通して家庭の様子を感じるコトも多いですね。

「そんなことも知らないの? 僕が教えてあげる!」 とキラキラした目で話す子の姿に親は感動する

:川遊びを楽しむには、ちょっとした知識も有効です。中本さんの書籍『多摩川ノート 土手の草花』(北野書店)ですばらしいなと思ったのは、草花の名前を漢字で表記している点。漢字から名前の由来を知ることができ、想像や好奇心が膨らみます。

中本:子どもの前に、まず自分たちはどうなのか? 親御さんが自身の暮らしをチェックするとよいかもしれませんね。大変な時代。簡単ではありません。でも、まず自身の状態をよくすることが、子育ての基本かなぁ……心配は尽きませんよね。割り切りは必要。教育は自立の手助けであって、立派なサラリーマンを作るために施されているのではありません。子どもの未来は、子ども本人にしかつくれない。そう覚悟を決めて、多くの選択肢を体験させてほしいですね。夫婦仲よし。幸せに生きて見せるのって、子どもには大きな勇気を与えると思いますヨ。

:自然保護やSDGsを教えるにも、まずは私たち大人が、自然の壮大さやすばらしさを知って、その摂理に関心を寄せるべきですね。子どもは身近な大人を模倣しますから、子どもに何かを伝えたいなら、私たち自身が純粋な興味を持たないと。

多摩川の河川敷で。こうして並んで歩いていると、ふと子どもが本音を漏らしたりする

中本:東京の自然はたくさんの人々に利用されます。多摩川には、毎年1800万人以上の人々が訪れる。ジョギングやサイクリング。でも、多くの方々が立ち止まることなく行き過ぎます。せっかく歩くんだから立ち止まってほしいですね。暖かくなり始めると、土手や河原にはかわいらしい草花が花を咲かせ、小鳥たちもさえずり始めます。彼らは、毎年同じ場所で同じ時期に動き出している。見過ごしている足元で春一番の草花に出合うと、とても幸せな気分を味わえる。近所が特別な場所になるといいですネ。

:本や図鑑で知識を入れる、そして実際に出かけてリアルな世界を知る。この繰り返しが知的好奇心を無限に広げてくれます。ぜひ親子で取り組んでほしいですね。

中本:最後にキーワードをプレゼント。近年大人も子どもも不足している栄養素、知っています?「ワンパク質」。サプリメントじゃ補給できません。補うために必要になるのは「G・H・K」。それぞれの頭文字で「G(元気)・H(暇)・K(好奇心)」。これをそろえると、やがてジワジワと「ワンパク質」が醸造されます。充填すると、あなたもあの頃の「魚捕りのうまい少年」に戻れますヨ!(笑)

子どもは適当に生きていくから大丈夫。「関係ねえよ、適当にやっとけ」と言える大人も必要です

グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。

フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志から、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。

withコロナ時代において、中核事業の「フィッシング」は「3密」を避けたアウトドアスポーツ・レジャーとして評価され、「ニューノーマル」が定着する中、その業績も好調だ。

環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。

40年以上続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)の運営にも力を入れており、未来を担う子どもたちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。

「グローブライド」という社名には、地球を舞台にスポーツの新たな楽しみを創造し、スポーツと自然を愛するすべての人に貢献したいという思いが込められている。

世界中の人々に人生の豊かな時間を提供する「ライフタイム・スポーツ・カンパニー」として、今後も地球を五感で楽しむ歓びを広め、アウトドアスポーツ・レジャーの未来を拓いていくユニークな企業だ。